2012年5月16日水曜日

農業経営の目標設定は売上高?経常利益?所得?

    農業者の皆さん!5年後、10年後の経営改善計画を立案する場合、①粗収益、②売上高、③営業利益、④経常利益、⑤家族労働報酬・・・どれを選らんで数値目標の基礎とするか。これには家族中心の経営、従業員も多数いる経営・・・といった体質によっても違ってくるかもしれない。
 ところで、①~⑤について個々の内容を吟味したい。
1.粗収益=生産品の売上+副産物の売上+自家消費+生産品に関係する補助金・交付金
2.売上高=生産品の売上+副産物売上
3.営業利益=粗収益-生産・販売経費
4.経常利益=営業利益+営業外収入(利子や生産品と関係ない保険等の収入)ー営業外支出
=税引き前利益
5.家族労働報酬=専従者報酬(法人では家族役員報酬等)+経営主報酬 
  
  ざっとこんなことになる。1や2は、あくまで入ってくる金で、利益とか家族労働報酬の高さとは関係ない。規模拡大すれば、普通なら売上高や粗収益は上がる。しかし、規模拡大のみ急ぎ、借金まみれ、赤字まみれになっている経営は少なくない。酪農経営で110頭まで増やしたが、草地が劣悪のため、餌不足で年間1頭の乳の量が7,500kg(標準9,000kg)で、8,000万円以上の借金のため、返済できず競売にかかった例も見てきた。

 
 3や4の営業利益や経常利益は目標値になるか?家族労働報酬を高くすれば、シーソーゲームのように、一般に営業利益や経常利益は減る。実際、節税対策のため、家族個々の報酬を増やし、営業利益や経常利益を抑える例は多い。5の場合の家族労働報酬もまた、3や4とのシーソーゲームで低くなったり高くなったりする。

  経営の5ケ年、10ケ年の中・長期計画を立てる場合、それが期待や希望に満ち、楽しいものでなければ、「おっくう」なものになる。「10年後には子供も2人になり、このくらいの所得が欲しい。
借金が楽に返せ、投資も充分にできるだけの余裕を確保したい」・・・こんな前提で、経営計画が立てられることがベターである。

  とするならば、1~5の単独型経営計画は総てバツである。そして家族所得や経常利益を組みこんだ4+5型のものであるべきだ。個人経営の場合、経常利益は差引経営者所得に組みこまれている。これに専従者所得(給与)を加えれば、法人経営の家族役員報酬+経常利益に類似してくる。法人と個人の別なく収益力の比較も可能になる。また(4+5の額)÷(粗収益対比の4+5の百分率)×100=目標粗利益額となり、収入全体の目標も簡単に計算できる。

 2、3、4,5年後の粗収益の目標といっても、その前提として、目標労働報酬、目標経常利益というものが計算に組み込まれていなければ、将来の発展に結びつかない。適正な労働報酬は家庭のうるおいを保証し、経常利益は返済余地や投資の余地を広げ、着実な発展を保証してくれる。

 できれば、家族労働報酬だけでなく、雇用者の労働報酬も含めて目標に折り込むのが正解である。さもないと、人的面で行きずまる・・・新規の就農者不足も報酬の低さに起因しているからだ。

  今回、以上の点に触れたのも、個人経営には経営主所得を、法人経営には営業利益を採用し、
5ケ年の実績評価をする・・・といった同質性のない要素で評価する場面に出会ったからである。
また我々コンサルタント仲間においても、農業者に個人、法人の決算書例を示し、丁寧に数字の意味を説明したうえで、経営計画立案を指導していただく必要がある・・・と感じるからだ。

  経営計画を立案する場合、年々の変化は売上高=栽培ないし飼育規模×出荷量×単価になる。そして単価はこだわりの程度(付加価値)や販売チャネルで異なるだけではなく、①対象とのる生産物の価格推移・・・回帰分析による推定、②価格変動が激しい場合はそのリスクを折り込む必要がある。また経費面では①家族及び雇用者の所得=労働報酬の向上を見る、②主たる資材の値上りまで組む・・・といった配慮をして、初めて本物の経営計画になる。ただ過去の延長であってはいけない。

 
 回帰分析(=最小ニ乗法)による傾向値の計算は、難しいものではない。関数を使うのでなく、エクセル表で視覚でとらえながら計算する方法もある。必要な方には無料で計算方法を伝授する。
  ところで、部門別の所得率(法人であれば家族労働報酬+経常利益)のメドだが、やや古いH19
年の統計では、償却費を含んだ所得率レベルは、稲作全国38.9%、柑橘34.0%、リンゴ37.4%、露地野菜全国29.6%、施設野菜35.2%、施設花き30.3%、茶30.2%、キノコ25.6%、酪農全国23.4%、肉牛全国10.4%、養豚11.2%、採卵鶏9.3%、ブロイラー9.4%である。


 


2012年5月15日火曜日

大型6次産業化の優等生-モクモク手づくりファーム!

 やや前になるが、4月26日にテレビ東京で放送された村上龍氏進行の「かんぶりあ宮殿」=三重県伊賀市の「モクモク手作りファーム」の訪問記である。見られた方も多いと思う。全国直売所研究会から事前連絡を受け、当方も一生懸命メモを取った1人である。見なかった方からのリクエストもあり、一部間違いもあるかもしれないが、下記に紹介してみる・・・

「2人のサムライ修(オサム)の農業革命」といったサブタイトルだった。社長が木村修さん(60才)、専務が吉田修さん(61才)で、2人は同じ農協で働く職員だった。木村さんが販売、吉田さんは獣医で営農指導? ともあれ、夫婦よりも長く30年間も一緒に持ち味を発揮してきた。性格も異なり木村さんは楽天派、吉田さんは慎重派で、モクモクを立ち上げるとき、吉田さんは子供3人、家も新築したばかりで慎重にならざるを得なかったようだ。

今日、モクモクは年商48億円、年間来場者50万人、視察受入れ320件(5,000人)、ネイチャークラブ会員4万2千世帯・・・HPの公表数字で、実際に放映の際にも紹介された。

1.価格決定権を持ちたい

農協当時、物を売るためスーパーを訪ねると安い輸入品がズラリと並び、「安くしろ・安くしろ」の要求ばかり。ところが、デパート等のギフトコーナーに行くと、ハムなどの贈答品は1万円で売られている。生産者手取り価格は、この1/10ほどと低い。

「メーカーや小売に価額決定権を握られ、農業者は下請けにすぎない。これではいけない。価格決定権を持たねば」と2人とも退職し、呼びかけ、仲間16人で1人200万円ずつ出資し、農事組合法人を設立、24年前に現在の「手づくり体験A館」の場所に工房を立ち上げ直売を始めた。

「あのバカ者たちに、何ができる」と当初はあざ笑われた。実際、山のなかの立地のため、お客が来てくれない。赤字続き。「ただ普通のものを作っていては評判にならない。味と品質にこだわりが必要」と反省。ハムも伝統加工法の自然熟成にし、ウインナーの皮も高騰しているものの天然の羊腸を使った。売れるようになり、地元養豚も1万頭出荷までに増え豊かになった。

次々と野菜の直売所、パン工房と拡大してきた。いまではレストラン、遊園地、宿泊施設、体験農場・・・ほか約26ほどの施設があり、その規模は東京ドームの3倍と云う。直売所「野菜塾」は100軒の農家が出荷しているが、あまり安くせず100円以上で売るのが原則。パン工房では国産の小麦を使用。酵母入り生ビールも地元産の大麦を使用。

2.土着性のあるブランド作り

 商品作りのコンセプトは生活圏の人に愛着を持ってもらえるための「土着性の強いブランド」である。「国際競争が増すなか、生き残るには地元顧客に愛されればならない」ということ。

 成功の秘訣は、一つに話題性・・・「バレンタインデーに米こめウィンナーを」と新製品を提案したり、その後も渦巻き状の「クルクルウインナー(全長160cm)」「スープが飛び出す生ウインナー」など、毎年新製品を出し続けてきた。

 地域と一体になるには、体験してもらう必要がある。イチゴ狩り体験教室をスタートさせ、子供さんなどに「イチゴは野菜ですよ。木になるのが果物」と農育の場面も放映された。「食べ放題はいけません。沢山採って沢山たべにゃーあかんということになると、採り過ぎて捨てることがある。もったいない」との弁もあった。

手作りウインナーの体験教室は1年先まで予約で一杯という。「同じ腸でも羊を使ったのがウインナー、豚がフランクフルト、牛がボロニアン」とここでも知ってもらう努力が盛んにされている。レンコンの収穫体験もあり、これらの魅力が熱烈フアン42,000人を生み出した。「消費者は仲間というスタンスが大切だ」と指摘していた。

また「大切なのは伝えること。知ってもらうこと」で、体験教室だけでなく、通信販売では、カタログに商品作りの失敗事例も沢山のせ、注目度を高めてい。現在、通販は全販売髙の30%と高い。

3.視察者の地元を支援

 立派なのは、視察に来た農業者の現地に出向き、奉仕的に農業や6次化の支援をしていること。沖縄の徳之島では2人にコーヒー栽培を奨励し、自家焙煎し、地元にコーヒーショップも作って売るよう指導している。

「おせっかいが好きなんですよ」と2人の修さんは笑い合う。各地の農業の見直しを手伝い、自らの手で地域活性化できるよう「おせっかい」を焼くとは、実に立派である。

 この後出て来たのが、モクモクへの新規就職者の紹介だった。中央や早稲田大学の法学部卒、東大や名古屋大学農学部卒、中央大学経済学部卒・・・とそうそうたる学歴が披露された。

 やはり、モクモクは生産―加工-販売の6次産業を多要素で達成、待遇も良く、楽しく、明るい未来型の農業経営をすでに実現しているからだろう。昔、モクモクの高い給与の紹介記事を見たことがある。

「各県にモクモクのような大型のモデルが1つ?できれば、ずいぶん地域活性化が進むことになるだろう」との村上龍さんの言葉が印象的だった。しかし人材が必要である。モクモクが育てた人材が、全国的に散ればこれも夢でない。

2012年4月13日金曜日

直売所にベビーリーフがありますか!新サラダ素材!

葉菜類の複数の「若い葉」(=ベビーリーフ)をミックスして、商品化しているのがベビーリーフである。4年ほど前に某農場を訪ねたいたさい、再三お土産にもらった。ドレッシングを掛け簡単に食べられ、そのシャキシャキした歯ごたえが魅力で、現在成長株の商品だ。直売所の扱いはまだ少ない。私自身、そのなんたるかを理解してこなかった。

 今回、栽培の実態を埼玉県所沢市のグリングリン・カラーズ合同会社(CEO福井航 電04-2944-1910)で見せていただいた。ハウスの土壌の上にシートが引かれ、突っかけに履き替えて入りようになっており、衛生管理に留意している。肥料も液肥のみ。外気や土壌に触れず、病気や害虫が発生しない環境。

 このため化学農薬を全く使わないそうだ。「安全保証」の品が生産されている・・・となると生食しても安心ということになり、レストランや一般家庭の消費が急増している。

 ハウスの細かい区画ごとにそれぞれ別種のベビーリーフが整然と植えられている。その数はグリーンオーク、ターサイ、デトロイト、ビノグリーン、ルッコラ、レッドオーク、レッドマスタード、ロロロッサ、レッドサラダボール、赤サラダからし菜、晩生ミズナ、イタリアンレッドの12種類にものぼる。

 ターサイ、ルッコラ、ミズナ以外は、皆さんもあまり馴染みがないはず。カルシュウム、カリュウム、鉄などのミネラルのほか、βカロチン、ビタミンCなどが豊富に含まれているそうだ。健康食である。

 ハウスの高床に無数の播種用の穴があり、これに撒いて水耕法で育てる。間引きしながら(これも売れる)10cmほどに育て出荷するようだが、種まきから30日とかからないと聞いている。高回転農業であり収益性は高い。当経営でも大胆な拡大を目指しているようだ。

 福井氏は他業界からこの世界に1年前に参入した、若手のベンチャーである。近代的な経営感覚を持ち、そのシャープさに声援を送りたい1人である。
 

 

2012年3月29日木曜日

イトーヨーカ堂「顔が見える」と直売所の安全対応!

    イトーヨーカドーの「顔の見える野菜」シリーズを見ている方も多いはず。生産者の似顔絵が描かれ、QRコードを検索すれば生産履歴も詳しく分かる。それだけでなく、シリーズ品は安全・安心重視の品で、次の5つの約束を守った商品である。

①国産の農産物に限定して取扱います。
②誰がどのようにつくった野菜かホームページで公開します。
③いい野菜はいい畑から。適地適作に取り組む生産者を厳選します。
④農薬は「平均的な使用回数の半分以下」を目標に減らします。
⑤信頼性を高めるため、第3者によるチェックを受けます。

   丸5年前、NPO「食の安全・安心支援機構」の理事をしていた時に、「トレーサビリティの課題と対応」というテーマをまとめるため何店かで「顔シリーズ」の調査もした。顔の数は3~18とバラツキがあった。久しぶりにヨーカドー某店で観察したが、「さすがヨーカドー」と言える。次の30アイテムにも増えていた。

  
   果物の不知火、トマト、ミニトマト(2)、フルーツトマト、ピーマン、パブリカ、ナス、キャベツ、レタス、サンチュ、スナップエンドウ、ミズナ、ホウレンソウ、コマツナ、ニラ、ニンニク、タマネギ、メークイン、男爵、新ジャガ、サツマイモ、ぶなシメジ、本シメジ(2)、エリンギ、マイタケ(2)、エノキ、黒大豆(乾燥品)。

   <挿入>ところで、この「顔の見える野菜・果物」を推進する「株・セブンファーム」は全国約15産地だが、J-GAPの認証を受けており、トレーサに先立つ安全生産管理適合基準を満たしており、24年7月18日の「GAP Japan 2012」においてGAP普及大賞を授与された。また今後3年を目標に50産地まで増やすという。


    いずれにしても、直売所は「顔が見える販売」としているが、実際は「名前が全品分かる販売」であって、どういう栽培法、こだわりの商品かは見えない。安全を保証する科学的根拠を提供していない場合がほとんどである。これで良いはずがない。

     昨年4月号の雑誌「農業経営者」では、千葉県の有力直売所「かしわで」で発覚した禁止農薬問題について、「かしわで」の代表者・染谷茂氏と昆吉則編集長の対談記事が出っている。いまからでも購入し読むに値する。
    内容を要約すると・・・平成10年12月に地元保健所の調査で、シュンギクから基準値を超える殺虫剤メチダチオンが検出された。自主検査をしたら他の生産者のシュンギクからも登録外の農薬が検出された。役所から商品を回収し、事故の内容を店内に告示するよういわれた。このため10日ほど営業を自粛した。出荷した本人には出荷停止の処分を果した。

   問題の本質は・・・直売所に出す人は少量多品種栽培をしていてドリフト(飛散)が起きやすい。また年配の人も多く、農薬万能時代を経験し、農薬の濃度などについて慎重さを欠いている。現在の農薬取締法の知識を欠き、登録の取れている農薬か、希釈倍率は、収穫の何日前までに撒くべきか、記録をつけるといったことを充分に指導すべき。

   改善策は・・・その後、全農家を集め研修会を開き、生産履歴を提出させ、不十分なものは弾くようにした。昆編集長は「規模の大小や年齢に関係なく、おばあちゃんの生産者もまた経営者。経営者ならだれもGAP(グッド・あぐりカルチャー・プラクティス=良い農業の規範)のような厳しいハードルを設け、努力すべきで、安易な基準で妥協してはいけない」と述べている。

    さて皆さんはどうか?どうも、安全について基準を設け挑戦している直売所は少ないように思う。大量生産-市場出荷ではトレーサビリティがかなり進んでいる。また中国なども、輸出に重点を置く場合、GAPもどんどん取り入れられている。昆編集長は「日本産品の安全神話は揺らぎつつある」とさえ指摘している。急ぎ、直売所関係者は遅れを取り戻す必要がある。

 
    当方の直売所の3ケ所の顧客調査でも、安心の支持率は29.4%と比較的高いものの、「安全」の支持率は平均5.3%に過ぎない。あまり「安心・安全」が信じられていないふしがある。

2012年1月2日月曜日

農産物直売所の接客-その基本は何か?



直売所は生産者と消費者の直接の出会いの場である。5Sを含む新5S(後記)に沿った、実りある出会いの場にし、再度来店してくれる「満足」を与えることが、接客の基本である。

 接客の基本を確立するには、これに先立つ教育が肝心だと思う。つまり接客マナーはもちろんだが、商品知識、補充・陳列、売価設定、発注、不良品チェック等も重要な要素である。新しい商品が入れば、店長が説明するなり、昼食事に試食して見ることが接客の第1歩である。また、朝礼前に、レジ要員についても、店全体を見て回り、陳列やPOPの乱れも直しながら、何がどこにあるかを知ることが第2歩である。

 そして第3歩が実際の下記の新5S=接客姿勢である。これは形ではなく、「最大のおもてなし心」が肝心で、店長が率先して「顧客満足度を高める努力・姿勢を持つ」ことが必要になる。
①誠実・・・鮮度・品質、価格設定、接客等における誠実な対応。
②正確・・・こだわりを正確に伝える。正確にレジ精算。要望・苦情を正確に処理。
③清潔・・・5S=整理、整頓、清掃、清潔、しつけ(従業員の教育)の徹底。
④安全(セフティ)・・・食の安全。駐車場・売り場内における安全の確保。
⑤スマイル・・・いつも笑顔で顧客を迎え、顧客が笑顔で帰れる店に。

 第4歩が、正しい接客用語である。接客用語は相手の目を見て、聞こえるように行わなければならない。
①いらっしゃいませ
②お待たせいたしました
③ありがとうございます
④何かお探しでしょうか
⑤依頼には-かしこまりました
⑥苦情には-申し訳ございません
⑦お願いや恐縮したときー恐れいります
⑧客の前を横切るとき-失礼いたします
⑨客を待たせるとき-少々お待ちちください

 今のスーパーやホームセンターでは、ほとんどの店で、「何々はどこにありますか」と尋ねると、商品の現場まで案内するか、「何番の表示板の列の奥です」と教えてくれる。
 レジが終わると、手を十字に合わせ「ありがとうございました」と会釈する。
 単品購入の場合、サカー台に行かなくてもレジ台で買い物袋に詰めてくれる。
 品物の性質にしたがい、選り分けながら小袋に詰める。

 至れり尽くせりのことを、ごく自然に行っている。総てのことを直売所が取り入れる必要はないが、「おもてなし」の心が充分習慣化する必要がある。

顧客視点から見た農産物直売所の新展開法!!

地産・他消の発送品もドッサリ


1.その現状と問題点
(1)セブン店舗数を3,000店も超える
  農産物直売所は都市生活者にとっても、身近な存在になっている。東京23区にもあれば、土日に空き店舗や軒下を利用した都心型の直売所や集団化したマルシェ(青空市場)もある。
 農業センサスによると、全国の直売所は2005年に13,538あったものが、2010年には16,829と大幅に増えている。運営主体の内訳は地方公共団体210、第3セクター462、JA経営2,315、その他13,842となっている。「その他」は個人、グループ、農事組合法人、会社組織など様々だが、個人や有志の任意組合が圧倒的に多いはずである。

 コンビニエンス・ストアの雄・セブンイレブンの国内店舗数は現在約13,050店で、直売所の5年前に近く、「セブンに近い店舗数」と言われてきたが、あっさり追い抜いたところに今の直売所の成長性が読み取れる。数が増えたため最近は「直売所に出してきたが、売上が減り魅力がない」の声もよく聞くほどで、様々な問題も浮上している。。
 
 診断士仲間ともに3店について各400人(平日200人、土日200人)、計1,200人の来店客調査をしたが、顧客視点から見て様々な問題を抱えている。苦情・要望で突出しているのは「品揃え」の40.1%である。直売所も小売りの業態であり「主人公は商品」だが、「午後に行けば欠品だらけ」「季節の特定品目に集中」といった例が実に多い。店舗の通路の狭さ、駐車場の狭さ(年商500万円に1台が目安)、価格の高い安いのバラツキ、接客の悪さ、POP表示の不足なども問われている。問題は顧客視点からスタートしていないことにある。

 また多数の直売所に接し、関係者の話も聞くと、問題の本質はもっと深いところにあると思う。例えば・・・
 ①「手数料制・残れば生産者に返品」が普通であり、リスクなき企業のため、スーパーに等しい厳しい経営努力、サービスがされない。閉店時間も17時が一般的である。
 ②返品ありのため、追加補充がされず、午後になると極端に品薄になる。午後の客数が大幅に減てしまうのにレジ要員数は同じで、人件費率を高め、貴重な設備を遊ばせることにもなっている。
 ③店長が「生産者自身が高齢化し、出荷量が減っている」と答える場合が多いいが、出荷予備軍を育てる等の努力がされていない。
 ④数が増えため、店間や生産者同士の価格競争も起きている(生産者組織が売価設定のルールを設定しているところは別)。
 ⑤並みの直売所では、当初3年ほどは売上が伸びるが、その後は停滞、減少に転じる。チラシを播かなくても、足元地区は3年ほどで開拓が完了し、その後の発展策が準備されていない。
 ⑥地域に依存(地産・地消費)した属地主義のため、支店を次々出し、発展をはかることはできない。 商圏半径も5~25kmと広く、近くに支店を持てば食い合いになる。
 ⑦手数料一つとっても12~23%と極めて幅があり、委託品と仕入れ品の比率も様々で、多数の指導書が出ているものの、経営指標というものが明確になっていない。

2.外部参入企業によるチェーン化
 最大の問題は、外部の参入である。千葉県に本部を持つホームセンター他を経営してきたタカヨシは、直売所「わくわく広場」を直営やフランチャイズで千葉、神奈川、茨城、東京に46店展開。
群馬県に本部を持つ「ファームドゥ株式会社」は、肥料・農薬・種苗などの販売がメインと思われるが、直売所機能と道の駅機能を合体した「食の駅」「食の駅+援農S」の売り場150~300坪店を群馬中心に9店舗、直売所+コンビニ機能をコラボレートした「地産マルシェ」30~40坪を都内と埼玉に7店展開している。資本金1億7千万円、従業員540名、年商142億円である。群馬や埼玉地区の農業者5千人ほか日配加工業者を農商工連携的に結集し、計画された品揃え、陳列・レイアウト、外装の店を出している。一般直売所にくらべれば魅力を多数持っている。
 
 NEXCO東日本、中日本、西日本といった高速道路会社も、それぞれ直売所を設置する方向で数店を開設している。中日本の場合チャレンジV計画により、サービスエリア10ヶ所への出店を予定し、すでに計4ヶ所に「やさい村」を開いている。山梨の「談合坂」のばあいテント掛け50坪(レジ2台ー年商推定1億2千万円)ほどだが、通常の直売所と同様、出荷組合の品を野菜20~加工品25%で委託販売している。運営はNEXCOの子会社が当たっている

 チェーンオペレーションにたけたスーパー等が本格参入すすれば、サービス力を欠いた直売所はひとたまりもない。このため体質強化を支援していくことが急務である。

3.顧客視点に立った販売に
 問題の一つは顧客調査がされず、顧客属性や行動が分からないまま、「作り易い物を作り、出来たものを全量出し、大雑把な値をつけて売る」といった勝手主義だ。顧客視点の販売に変えていく必要があり、店頭での顧客調査も支援の対象となる。

 スーパーの商圏半径は徒歩圏0.8km(都心部)~自働車圏2.5km(群馬・長野など)だが、調査で分かったことは、直売所は近隣型でも5km、長距離型では15~25km(幹線道路沿いや道の駅)、超長距離型では50~200km(観光地等)にもなる。広く浅くの集客である。

 調査2店で1km圏の世帯数に対する週来店頻度を出すと、0.254回、0.194回となる。スーパー等(50地区の近藤調査)については、1世帯週平均4.59日買物に出て、平均4.0店を利用している(生協の共同購入、ドラッグストア等を含む)。1店平均週1.15回の来店となる。これは商圏全体の平均で、1km圏の店に限ればもっと高いことになる。主婦の買い物頻度と比べて1/4~1/5という低さだ。この事実は「特定ニーズ」「特定ライフスタイル」客を中心に集客していることになる。

 主婦の食のライフスタイル区分はQ=クオリティ型  V=バライティ型  P=プライス型  C=コンビニエンス単独型、そしてQ、V、Pの複合に分かれる。
Q型(品質志向客)
 物を吟味し、専門店、SM、直売所、生協など使い分ける。真摯に食と向き合う層で直売所の顧客のほとんどはQ型と見ている。
V型(品揃え志向客)
 地方性の高い土産品購入大手SM・GMS・デパート好み。華美な消費。このため観光地の直売所に
は良く寄ると見る。
C型(便利性志向客)
 近い、ついで、勤め帰り道、行き易い、長時間営業など便利性で動く。ドライブ、散歩、ジョッキングなどのついでに直売所による。
P型(価格志向客)
 加工食品・雑貨を含め、ディスカウント店やチラシ商品を選ぶ。青果の安さのみでは動かない。このため直売所と無縁の場合が多い。
<注>SM=食品スーパー。GMS=総合スーパー

 直売所3店の利用理由調査によれば、3店平均で新鮮92.3%>安さ53.5%>安心29.4%>品質・味28.3%>青果の品揃え25.3%>安心29.3%>珍しい品6.8%>特産品あり4.9%>生産者と対話可3.4%となる。「新鮮さの魅力」が突出している。これは別途関東5県(栃木除く)・長野・山梨・静岡の18地区500人の主婦対象の「食のライフスタイル区分」(近藤調査・分析)のQ型客と重なる。
Q型は商品の鮮度・品質を重視、良いとなればSMだけでなく、専門店、直売所、生協などで選択購入する。V型はGMSやデパ地下を好みで、GMSを1番店として選択する率がQ型やP型の5倍にもなり、青果専門的な直売所を好まない。アッパー層が含まれ、道の駅やドライブインなどの直売所で地方名産品と言った珍しいものは買うと見る。Q型もV型も40~70代の所得が高位安定した層に多い。Q因子が絡む主婦は36.7%と最大多数である。
 
 P型は所得が低い20~30代に多い。世帯員1人当たり食費支出も50~60代の2/3程と低く、野菜だけが安くても直売所に来ない。実際直売所調査2店の平均では20~30代の構成比は12.4%%、土日だけに限っても19.3%と低いことでも証明される。C型は中立で、散歩やドライブの途中に直売所があれば寄る。

Q型は鮮度・品質が良ければ、市場出荷できない規格外品も買うが、反面こだわりを持った高品位の品、減農薬・減化学肥料の品も買う可能性がある。「料理の選択基準」においても健康、安全、美味、季節の味、簡便さなど総べての要素でトップを占め、食と真摯に向き合うタイプ。直売所は試食、料理教室、パンフ、POP等を通じ、Q型客を育てることが必要になる。

4.強固な出荷組織の運営を
 同時に生産者に顧客視点に立ち、計画的に①顧客ニーズに沿った種類や質の品を、②必要な量だけ作り、③適正な売価で供給し、④苦情が多い場合、出荷停止・・・といった運営になっている必要がある。「勝手主義」の運営では品揃え不足(珍しい新製品や減農薬品等)、午後の欠品、売価競争や不適正な売価設定といった問題は解決しない。

 大きな白板や黒板を使い、当日の売価基準を示している直売所も多々ある(埼玉県・花園農産物直売所等)。また出荷者が高齢化し、量が不足する場合、企業をリタイア-した兼業農家の人を育てるとか、市民の援農組織を結成し手伝ってもらうなど、打つ手はいくつもある(八王子市や入間市に事例あり)。
 
 直売所組織の運営にしても、午後の欠品が多い場合、①午後出しの人は、翌日出荷時に返品、②午後出しの手数料を下げる、③午後は買取りにする。残れば翌日午前に値引き販売するとか惣菜に回す・・・などこれまた打つ手は多数ある。福岡市の「ぶどう畑直売所」は全量買い取りだ。女性が代表者(新開玉子氏)惣菜等の加工販売が得意のためである。

5.直売所発展の方向・・・すでに本ブログで何回となく言及ずみ。
(1)量的拡大戦略
減農薬・減化学肥料品、ときに精肉、惣菜、FF、農家レストラン等の充実。給食センター、民宿、ホテル等への供給→客単価の向上

(2)質的拡大戦略
こだわりの良品販売に徹し、直売所そのものをブランド化し、広域集客やギフト宅配を増やす→広域商圏化で客数拡大

(3)多層化戦略
農家レストランにとどまらず、ハウスなどの観光農園、体験施設、遊園地等も加え、総合的な憩いとレジャーの場を構築→超広域化さて、最大の課題は売上髙の停滞ないし減少対策である。もはや「地産・地消」といった単純なコンセプトではやれなくなっている。様々なこだわりを意識し、個性あるコンセプトの直売所を創造し、成長性を維持できるよう支援する必要がある。発展策として3方向が考えられる。

 1は選択性を広げ、地元消費をさらに開拓し、客単価や売上髙を伸ばすことだ・・・つまり地元ニーズの深起しである。養豚の盛んな茨城の「JAポケットファームどきどき牛久店」や静岡県富士宮市の「う宮やーな」は、自店処理の精肉コーナーや主婦のランチを狙った大規模レストランも持つ。

 2については、全国直売所研究会長の長谷川久夫氏が経営する「みずほの村市場」が好例である。農業者の所得向上を第1義とし、仮にAのホウレンソウが100円とすると、Bはこれをしのぐ良品でないと出荷を認めない。「良」となれば「120円で売ってよい」となる。野菜はもちろん米、加工食品、菓子まで含め、近隣スーパーにない「こだわり品」ばかりである。野菜コーナーでは常時7~8品の試食ができ、ヨウジを捨てる箱も準備している。裏のハウスでは時に1万円を超えるようの蘭(ラン)が50種ほどもある。直売所がブランド化され、商圏が広域化し県外客も多い。
 
 3については三重県の「モクモク手づくりファーム」、埼玉県日高市の「サイボクハム」が先進例で、多様な業態を直営で集積している。後者派何回も訪問しているが、直営の加工場と合体したSMのミートセンター、楽 農広場という名の直売所、大規模な焼肉等レストラン、FF、天然温泉、パターゴルフ場、陶芸教室、3尾の子豚のいる小規模な遊園地からなり、食・遊・憩いといった「農業版デズニーランド化」を目指している。これにより、商圏は巨大化し、発展が持続する。他も直営や連携によってイチゴ等の観光農園、農業体験施設、広い植木園、コンビニ、精肉店、複数の飲食店、遊園地等を持つ道の駅付帯の直売所(群馬県のららん藤岡等)もある。


      近藤・支援内容
  該当時間
1.農業のマネージメント講座
3~7時間
2.農産物のマーケティング講座
3~7時間
3.農産物直売所の新たな発展策講座
3時間
4.直売所・顧客視点の販売促進講座
 3時間
5.主婦の食のライフスタイル講座
 3時間
6.直売所顧客調査(200~300人)
2日16時間
7.直売所の総合診断
2日10時間
8.農業経営総合診断
2日10時間
<注>講演3H7万円・7時間10万円 (交通・宿泊別)
リサーチ30万円(交通・宿泊費別)
講演の場合
1時間は4万円
2時間は6万円
経営診断20万円(交通・宿泊費別)
報告日は無料とし、交通・宿泊費別
     携帯 080-3464-2607    各種電話相談無料

2011年12月4日日曜日

農業ファンドとは何か?6次産業化の強化!(加筆修正)

 注:H24年11月16日に改めて関東農政局から、農業ファンドの説明を受けた。骨子は変わっておらず、ごく一部補筆させていただく。

 農水省では25年度予算要求の柱の1 つとして、「農業漁業成長産業化ファンド(仮称)」の設立を掲げている。このため財政投融資資金200億円が計上されている。

 ファンドとは何か?。事業をするための元手、資本、基金と言った意味。 今回のファンドは、官民共同して 基金を出し、本ブログでも何回か紹介してきた6次産業化事業に資本投入して、農業者の資本力の弱さをカバーし、事業をより大きなものに育て、強い体質の農業にしようとするもの。TPP等の貿易自由化の流れにも配慮した施策といっても良い。賛否の議論は別として、中身について簡単に紹介すると・・・

 すでに触れたとおり6次産業化と一体の関係にあり、6次産業化プランナー等を300人規模から500人規模への増員したり(16 億→20億円)、輸出・観光等のメニューを追加したり(15億→23億円)、10%ほどの女性企業家枠を設定したりの施策とセットになっている。
 
 
 

  現在は1次産業年10兆円、2次産業(関連製造業)+3次 産業(流通・飲食業)年90兆円という規模である。1次×2次×3次の6次産業化事業は、過小資本のため農林漁業者の主体的な立場での価値連鎖の取組が遅れている。
 

 ファンドが出来れば、農林水産業者は6次事業体の25%以上の株を持てばよく、別途融資も受けられるので、最低4倍以上の資本で、事業展開できる。農水省では従来の投資規模の7倍程度、売上高10倍をめざしている。

 
 ファンドによるテコ入れで、6次化事業の資本強化をして付加価値の連鎖を高め、現在の1次の1兆円産業を今後5年で3兆円に、10年で10兆円に拡大して行こうとするものである。

 ファンドは下記の通り、3段階の仕組みである・・・
 1.(㈱農林漁業成長産業化支援機構に国及び民間の商社、食品 企業、金融機関=メガバンク等が出資。国は融資も行う。20年間の時限組織で、ファンド事業全体の指揮・監督に当り、意に沿わない案件に対しては拒否権を保持する。

 2.1のファンドの資金50%(上限)+地域金融機関や地元 企業が出資して、「地域ファンド」=サブファンドを立ち上げる。出資期間は最長15年(この間に下記の事業体について経営成果を上げ回収することを目標とする)。

 3.農林漁業者が25%以上、パ-トナー企業が25%以下、2の地域ファンド(サブファンド)が50%以下の出資をして「6次産業事業体」を立ち上げる。 事業が軌道に乗れば、農業者や連携事業者が地域ファンド分の基金(株)を買い取りる形で、1や2のファンドは資金を回収する仕組み。事業が失敗すれば、資金の回収が不可能になり、立上げには厳しい審査が必要となる。また運営には技術・販路・ノウハフ面でのタイトな連携が必要になる。

  農林漁業者は①高品質、②大規模供給力、③トレサビリテ ィ対応、④生産者グループ形成力等が求められる。また6次産業化支援組織のプランナーやパートナー企業が①販売ネットワークの提供、②マーケティング力、③物流ノウハフの提供、④IT技術の提供等をして支援していく体制が取られる。

 年200~500件ほどのスピードで、6次産業化ファンドを立ち上げる予定とされるが、これまで農業者1~3人程度が関係する「点」に近い6次産業事業を、地域の多数が関係する「面」に育てるといった期待が持てる。この点、意欲的なプランである。

 上記3のように、農業者の出資を25%以上にし、あくまで農業者主導の事業になるよう配慮されているが、民間企業の出資がはいることで農商工連携事業との違いが出せるか(農業者の所得向上)?との懸念もないわけではない。

 しかし農業者の弱い企画力やマーケティング力やを補ってくれ、所得率はやや下がっても、所得のボリュームを拡大することにつながることは間違いない。雇用の規模も多くなり地域活性化への効果も高まる。 

 (間違いがあるといけないので、詳細は今後、農水省のHPや新聞にも出ってくるので、正確にその知識を得て欲しい)


      近藤・支援内容
  該当時間
1.農業のマネージメント講座
3~7時間
2.農産物のマーケティング講座
3~7時間
3.農産物直売所の新たな発展策講座
3時間
4.直売所・顧客視点の販売促進講座
 3時間
5.主婦の食のライフスタイル講座
 3時間
6.直売所顧客調査(200~300人)
2日16時間
7.直売所の総合診断
2日10時間
8.農業経営総合診断
2日10時間
<注>講演3H7万円・7時間10万円 (交通・宿泊別)
リサーチ30万円(交通・宿泊費別)
講演の場合
1時間は4万円
2時間は6万円
経営診断20万円(交通・宿泊費別)
報告日は無料とし、交通・宿泊費別
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