2015年2月8日日曜日

「勝ち抜く農産物直売所の戦略と戦術」(近藤筆-小冊子)

 今般、この1月に本ブログの直売所関係の記事を中心に、補筆もしてより実践に役立つようまとめたものが、写真の「勝ち抜く農産物直売所の戦略と戦術」です。当方の属する一般社団法人・農業経営支援センターの宣伝もかねて手作り印刷・製本したもので、A4で40ページ、単行本にすれば100ページ分近くのボリュームです。農産物直売所に関するテーマに限り、ブログアクセス数のランキングも示し、その詳細はこのブログを読んでいただくこともできます。 

 すでに各種統計からすると、農産物直売所の全売上高の伸びは「停滞状態」にあり、新たな顧客ニーズを踏まえたコンセプト、戦略、戦術が求められています。戦略論、計数目標、販促の3点を重点に解説したものです。 


 Ⅰ.伸びに陰り 戦略の再構築を! 
 Ⅱ.直売所の目標と役割・革新 
 Ⅲ.直売所の苦情・要望と内部問題 
 Ⅳ.計数指標と管理体制 
 Ⅴ.売上高の予測法-どうしてもアバウト 
 Ⅵ.組織と運営-強いリーダーシップ 
 
 Ⅶ.店舗レイアウト・品揃え・陳列   Ⅷ.間違って欠 
 Ⅸ、販売促進-日々新鮮なイメージ 
 
◇◇冒頭のみ一部紹介◇◇
 
1.伸びから見ると赤信号が点滅
 これまで順調に伸びてきたと見られた直売所だが、農水省のH21年度の「農業センサス統計」と、最近発表された24年度「農業の6次産業統計」の二つを組み合わせた場合、成長期―成熟期を経て、すでに低迷期にあるとすら言える。要素によっては伸びがほとんど見られないのだ。
 表―1 件数及び年売上高に推移(H21年と24年は統計異なる)
年度
総事業
体数
年売上
(億円)
総従業者
数(人)
1件年商
(万円)
1人年商
(万円)
21年
16,816
8,767
119,000
5,213
736.7
22年
8,176
181,600
450.2
23年
7,927
200,000
396.4
24年
23,560
8,448
214,900
3,586
393.1
24/21
1.401
0.964
1.806
0.688
0.534
 2つの統計は、分類条件が異なるので比較しにくいが、事業体数は平成21年に16,1816件だったものが、24年は23,560件と1.40倍も伸びている。これは農家個人が季節的に小屋掛けして営業する零細な直売所が、6,000近く新規計上されているため(平均年商517万円=年150日営業なので日商3.4万円程度)。事業体数が大幅増なのに年売上高は24/21年の比較では0.964倍と減少している。1事業所平均の売上高となると5,213万円が3,586万円と0.688倍と大幅減である。2つの統計の違いにもよるが、「成長著しい産業」とは言えい一面があり、真摯に「発展の戦略」を考える時期にある。 
 
2.伸びない要因を自ら作る
 しかし、高い支持を得ている直売所も多い。まだ直売所の年商規模は8,800億円に過ぎず、スーパーの18兆8,000億円、コンビニの13億7,000億円に比し大幅に低く、「顧客満足度」の最大化に向け努力すれば、発展の余地は十分あると見るべきである。 
スーパー、コンビニ、ホームセンター、ドラッグ・ストアであれ、少子高齢化、長期のデフレ下で伸びを失ってきた。これらの業態の違いは、品揃え強化、コスト削減、長時間営業、日々の販促、ポイント等、あらゆる努力をしていることだ。 
コンビニなどは、日々新規商品を投入、青果やカット野菜、安いスイーツ、安く味の良いファーストフードの100円コーヒー、ATM・各種料金の支払いサービス、時に配達も充実・・・と、極限の努力をして、少ないなりに売上高を伸ばしている。例えばセブン・イレブンの場合、「1日平均の販売数が10ケ以下を続ければ、その商品は切り捨てる。1年で70%の商品が入れ替える」とされる。このように消費者視点の満足度を重視し成長を持続させている・・・筆者はいち早くコンビニに着目し、セブンのできる3年前に青果店の総合化→コンビニ化をめざし「みどりチェーンの店」を組織し主催、11店の運営を経験した。コンビニを日本へ紹介した阿部幸男氏の著書「日本で伸びるコンビニエンスストア」に、筆者が下書きした「みどりチェーン」の実践例が44ページにわたり掲載されている。 
直売所は顧客志向ではなく、時に生産者志向のみが強調され、自ら発展性を摘み取ってきた面がある。
    「新鮮さが売りだから」と、開店10時で、「売り切りごめん」で17時閉店。労力シフトが楽だから週1回休みと、右にならへしてきた。長時間営業とか年中無休という発想は皆無に近い(道の駅型は例外)・・・これでは兼業主婦は直売所を利用できない(最近では9:30~17:30営業、月1と3賀日休みの店も増えているが)。
    「地産が建前だから」と、品揃えが不十分なのに、他産地から連携購入するとか、市場仕入をして補うことをしていない。ときに必要な果物や地元産がない時期に必需野菜を置かないケースも多い。顧客に青果を買うため、もう1店余計に回るといった不便さを与えている。
    「地消が建前だから」と、地方へのネット販売・宅配も軽視している場合も多い・・・年商20数億円の和歌山の「みっけもの広場」(後記)は、他県からの来店も多く、箱売り―宅配も早くから実施し、過去に日本一の販売額を誇った。まず地消だが、地元消費に限界があり、直売所のブランド力を強め、他消(遠方客)の開拓も必要ではないか?
高齢化で出荷が減っているのに、新規の出荷希望者を拒む例もある。会社のリタイアー組等を出荷者として育てる努力をする例もまれだ・・・ブログで紹介した東京八王子の「すずしろ」という消費者+生産者組織は、時給550円ほどで生産者支援をし、自ら直売、給食センター供給もしている。
「顔の見える販売」「消費者とのふれあいを重視」と謳いながら、実際に会話を意図的にやっている例は少ない・・・3店で来店客調査をするため3~4人で計6日間店頭に立ったが、店長や店員、出荷者が消費者と2~3分の会話している姿をほとんど見られなかった。 
 以上、改善すべき要素は無数にあり、直売所は努力すればまだまだ伸びる産業である。現に夜間営業もし、7~8店と伸ばしている民間経営の直売所もある。「自身で壁や限界を作るなかれ」「日々イノベーションを図れ」を、肝に銘じて欲しい。努力の方向性については4項に譲る。 
3.直売所の成長はどこまでみこめるか
  農産物直売所同士の競争がささやかれるなか、業態としての直売所はこの先どこまで伸びることができるのだろうか?
 
 2010年(H22年)の農業センサスでは、店舗数16,816、年商推定8,677億円。店舗数では、5年前に比し24.3%増えている。また1店当たりの平均年商は5,214万円である。他業態の店舗数と比較するとH21年統計では(註:1本化された統計がない)・・・
食品スーパー   13,756   約18兆8千万円      1店13億7千万円
コンビニ     43,372    約 6兆5千万円   1店 1億5千万円

 参考に他業態の店舗数も紹介すると、総合スーパー(GMS)1,221、ディスカウント・ストア2,693、衣料スーパー3,976、ドラッグ・ストア12,516、ホームセンター3,699(これらは、商業界刊「日本スーパーマーケット名鑑H23年版」による)。
 店数からすれば、直売所はコンビニの39%ほどに過ぎず、食品スーパーにたいしては122%とやや多い。だが1店当たりの平均年商はコンビニの約1/3、食品スーパーの1/26に過ぎない。

 主要商品の青果+花卉の構成比は、スーパーでは平均約15.3%という統計(旧・セルフサービス協会)がある。これを18兆8,000億円に掛けると2兆8,800億円ほどになる。直売所の青果+花卉の構成比は、H21年の農業センサスによれば平均53.7%だ。これを,677億円に掛けると4,660億円である。以上を前提にするとスーパー+直売所の青果+花卉の合計は3兆3,480億円。直売所の青果・花卉の小売販売に占めるシェアは、4,660億円/3兆3,480億円=13.9%といった状況である。

 シェアが低レベルであればあるほど、今後の伸びが期待できる。だが食品スーパーは、商圏半径が普通0.8~2.5kmと狭く、顧客の日常的な便利な買い物を支えている。直売所は、商圏半径が最低でも6km、ちょっと大型になると15~25km、観光地型となると50~200kmにもなる。このため商圏内の居住者が全員来ることはない。むしろ極めて限られた人のみ来店している(数字後記)。
 
  筆者の直売所3店計1,200人の店頭調査では、観光客は別としてリピート客については、3店平均92.3%まで「鮮度が良い」とするQ型ライフスタイルの客である(他に品質・味を良とする客も平均28.3%含むが、複数回答のため鮮度の支持率に含めて考える)。

 Q型はクオリティー=品質を訳した記号で、鮮度・品質を愛する客である。Q型客の特徴は、GMS(総合スーパー)、スーパー、専門店、生協、直売所等を上手に使い分け、鮮度・品質・美味、その他安全・健康に良い商品を選択し、「料理の選択基準」においても、健康、美味、安全、さらに簡便さまで含め1位(他のスタイルV=バラエティ・品揃え、P=プライス・安さ、C=コンビニエンス・便利さ等のスタイルの中で)に立ち、食に真摯に向き合う層である。

 直売所としては、鮮度・品質にこだわりを持つQ型客を、こだわりに沿った品揃え、安全な良品提供、食育ソムリエの配置による料理教室、食育や農育に値するパネル、POPや試食の充実を通じ、いかに増やしていけるか・・・これによって、個々の直売所の伸びは変ってくる。従来型の「並みの努力」では、Q型客を遠方から呼び込むことができず、直売所の伸びはすぐ限界に近づいてしまう。

 筆者の9都府県の18以上のエリアにおけるライフスタイル調査では8スタイルに区分しているが(C=コンビス・便利型、P=プライス・安さ型、Q=品質型、V=バライティ・品揃え型とし、C単独型、P型、PQ型、PV型、PQV型、Q型、QV型、V型の8分類)、Q因子を含むライフスタイルの構成比は35.6%と最大勢力になる。日本は南北に長く、四季にわたり新鮮な生鮮品が出回り、その鮮度と味覚を堪能する食生活が定着し、Q型因子を持つ消費者が多いと言える。
 
Q因子を含むライフスタイルのうち、一部は生協の店舗や共同購入に流れ、一部は「直売所まで遠い」ということで、近隣スーパーに流れ、全部が直売所に流れない。しかし最大半分を直売所に吸収できれば、そのシェアは17.8%になる。現在直売所の青果+花卉のシェアが13.9%とすると、現在の1.28倍は伸びる。とすると青果+花卉の年商は5,965億円、全体の売上高も同様の比率で伸びれば、直売所の総売上高は1兆1,221億円にまで増える。 
 実際は野菜+花卉以外の他分野の開拓は、6次産業化(別項では「多層化」と表現)などで無限の可能性を持っており、1兆5,000億円くらいまで拡大する余地はある。 
ただし鮮度・品質本位、こだわり品本位、6次産業化等の新たな展開をしない直売所は生気を失い、出荷者の高齢化とあいまってますます斜陽化する。そして外部から進出した高い管理能力を持つ直売所チェーン等に、シェアを奪われることになる。
4.今後の4つの方向性
直売所は、チラシなど撒かなくても、3~5年ほどで地域全体に存在が知れ、売上的にも頂点に達し、ほっておけば伸びがなくなるのが普通だ。最近も「売れなくなり、出荷の魅力が出なくなった」の声にたびたび接した。伸びが止まったら、改めてストア・コンセプトやビジョンの見直しが必要である。多くの場合、発展策は多数残されている。基本的には4つの再発展策が考えられる。 
(1) 基幹部門の深起こし
  基幹部門と言えば野菜、果物、花き、時に惣菜、ファーストフード(FF)、精肉、鮮魚といったものだ。青果や花卉の場合、新品種、珍しい品、減農薬や有機、地元伝統野菜等の新分野の充実だ。野菜を使った天ぷらやフライ、煮物等、ジュースやソフトクリーム・ジェラード等の開発も入る。
たいがいの場合、平台を一部2段、3段台に改善すれば、アイテムを拡大しても吸収できる。直売所はスーパーと異なり、「青果等の鮮度と品目ごとのアイテムの選択性をともなう専門店」という位置づけであり、個性あるアイテムを豊富に売ることが発展の基本である。 
(2) 小売り機能の多様化
  コンビニやスーパーにおいても、配達等を強化している時代である。地元消費の開拓は最終消費者への販売以外にも多数ある。地元給食センターや加工場、農家レストラン、民宿への供給、ギフトなどへの供給がそれだ。時に店長やサブ店長が必死に開拓セールスをし、配達員を雇用することも必要になる。配達が不可能な場合、業務筋専門のポイントカードを発行し、5%引きとし5ポイントとプレミアをつけ、店に来てもらう方法もある。最終消費者よりは買う量が多いので、「プレミアが損」と考えてはいけない。別レジで業務筋を受け割引する例は、温泉街を控えた地区に昔からある。 
(3) 質的な個性化・ブランド化
良品やこだわり品の販売に努め、直売所そのもののブランド力を高め、遠方客も引ける個性的な魅力を付加させる。この場合、ギフトの宅配も大幅に増える。「地産・地消」に固執すれば、すぐ地元消費は満杯になってしまう。商圏を拡大し、地産・「他消」にも努めるべきで、遠くの客にまでインパクトのある個性を追求する。そうすれば商圏は売場50坪でも半径15~25kmくらいからの集客は可能になる。茨城県つくば市の「みずほの村市場」はこの良き例である。 
(4) 多層=6次化路線で広域化
最終的には三重県の「もくもく」、埼玉県の「サイボクハム」、愛媛県の「内子フレッシュパークからり」等が目標になるが(農業経営支援センターHPや筆者ブログに詳細掲載)、1次(産業)×2次×3次=6次産業化である。すでに花卉・植木の温室や畑、イチゴほかの観光農園、そば・うどん店、農家レストラン等との併設はよく見られる。今後は過大投資を避け、付近に現にある施設とタイアップしたミニ・テーマパーク作りもある。商圏は25~100kmにも拡大する。
いずれにしても、商圏を深起こしするか、拡大しない限り伸びは停まる。直売所は多くの場合、「属地主義」で、地域に何店も多店舗化できないからである。
必要なのは、「出来たものをただ売る」のでなく、店と出荷組織が充分話し合いを持ち、「何のこだわりを売るか」「魅力的個性を売るか」の明確なコンセプトを確立することだ。また職員教育を徹底し、労力面のコストダウンを図ること。このコスト意識の欠如が、発展のための追加投資を阻み、直売所を停滞させる。さらに魅力ある品揃えと新製品の付加、安全・安心の強化、長時間営業、多面的サービスの徹底・・・といった、「顧客満足度のアップ」に沿ったイノベ―ションを進めることである。地消は流通コストの合理的な削減に通じ、新鮮さに通じるが、「地産・地消」という単純なコンセプトでは、もはや第2ステージに向けての発展はない。
◇◇ブログ「農業・商業お助けマン」 ランキング◇◇ 
直売所・6次関係のみの   2014年末現在

順位

タイトル

アクセス


農産物直売所-売れるレイアウトと陳列は

3,538


埼玉農業大賞ベンチャー部門-桂ファーム

(卵直売)

1,804


農産加工品の売価・値入は

1,687


農産物の原価計算は皆さん苦手。では・・・

1,249


頑張れ「ふれあい大樹」-身障者の直売所誕


1,211


農産物直売所-売れる陳列-マルシェに学


1,100


農産物直売所―損益の指標はどうなるか

1,026


農産物直売所とPOP-

1,015


農産物直売所-売れる陳列道の駅ちちぶ

754

10

農産物直売所の売上高予測の技法は

663

11

農産物直売所も商店もPOPが命

576

12

このままでは直売所が農業をつぶす(長谷

川久夫著)

562

13

直売所のパソコンを使ったPOP作成指導

523

14

JAみずほ「さくらファーム直売所」は地

元商工会連携

517

15

直売所はHPやPOPで何を知らせるか 

イベントは

498
直売所及の事例編

記号

タイトル

アクセス


あぐれしゅ(千葉)は直売所日本一の規模

166


ららん藤岡(群馬)は直売所+楽しい空間

243


地産マルシェ(群馬)は地元連携の本物直

売所

369


みずほの村市場(茨城)ほか+直売所が農

業をつぶす

758


サイボクハム(埼玉)はオンリーワンがコ

ンセプト

387


ポケットファームどきどき(茨城)は最高

のもてなし

278


上天草物産館(熊本)は海の幸・山の幸満

➀➁

248


モクモクてづくりファーム(三重)大型6

次の優等生

338
 
 農業経営支援センター会員を生かし、講演会、診断、調査を予定していただける気持ちのある農産物直売所関係者、市町村・普及センター関係者には、無料で進呈いたしております。ぜひ、メール mkondou@vega.ocn.ne.jp で近藤宛にお申込みください!即送付します。

2014年12月27日土曜日

「激動の時代と日本農業の活路」(鈴木俊彦著)-農業関係者必読!

 表題の本「激動の時代と日本農業の活路」は東京農大出版会のもので本体価格1,800円+税(計1,944円)。著者の鈴木俊彦氏は当方も6年勤めた「家の光」編集部の2年先輩だ。現在はフリーの農業ジャーナリストだが、当方の10倍もの本を読み、10倍もの取材経験もあり、広い人脈も築いてきた。 

    今回著作は、これらの総決算ともいうべきもので、実に細かいデーター、多数の見解を紹介しつつ、鋭利に農業や農協の現状に切り込み、妥当性のある発展策をズバリと提示している。「玉虫色」の結論ではないのが立派である。かつ共鳴できる改善策・発展策が多い。 

第1部     日本農業・緊迫の論点

第2部     協同組合運動の軌跡と展望

第3部     巡り合った人々の思い出と事件

第4部     世を去りし人を悼む     計269ページ 

 農協マンだけでなく、農業関連企業に携わる企業マン、スーパーやコンビニエンスといった食品小売業の幹部、そして農業経営コンサルタントも必読の書である。忙しいばあい特に第1部(114ページ分)だけでも読む価値がある。何故かと言えば、第1部では病める日本農業の姿・・・農業人口の減少、高齢化、担い手不足、耕作放棄地の拡大の4要素について、数字的根拠も示し正確に捉え、その対応策に言及しているからだ。 

      「社団法人・家の光協会」はJA系列の出版社で、鈴木氏も農協マンの一翼を担ってきたが、農協流の考えに組することなく、外部企業の農業参入、TPP、農協解体論等についても、実に客観的に述べている。  

 氏は「日本農業のキーワードは<まだら模様>」と見、家族農業と会社農業の並存、農業資本と商系他の外部資本の並存を現実の姿とし肯定し、「まだら模様」と表現している。 

    例えば外部企業参入も、「耕作放棄地が全農地453万ヘクタールの10%近くの40万ヘクタールに及び、外部参入が起こる隙間を作った」としたうえで、セブン&アイ、ローソン、イオン、東急ストア、西友、生協ひろしま、ファーミリーマート、ワタミ、サイゼリア、モンテローザ、大戸屋、ほか計20ほどの企業例をあげ、さらに7商社、10社以上の製造メーカーの事例を細かに紹介している。 

     「外部企業の新規農業参入は、明らかに侵略であり、蚕食だが、実際に農作業を担当するのは、多くの場合JAの正組合員。新たに雇用の場を得たことになる」。また「市場出荷による価格の乱高下に悩まされる農家にとって、やや低賃金にになっても(注:契約取引による定価格)小さな安定経営につながる」と、プラス面も正当に評価。
 

 さらに企業参入に対抗するには、農業者は農業法人化を図り、マネージメント能力を付加すべきだ・・・とするとともに、JAもまたJA出資型法人の集落営農を伸ばし、大規模化やマネージメント能力向上のメリットを発揮すべきだ・・・と明確な提案をしている。 

     JA全中の解体論については、最終的にはすでに1県1農協に統合した県もあり(奈良、香川、佐賀、大分、沖縄はすでに完了。島根は2015年3月予定)、これを全国的に進め、内部的合理化を図り、商社との競争力をつけることを提案。伊藤忠商事系のファミリーマートによるAコープ店舗のてこ入れも紹介し、商社との連携も1つの発展策と捉えている。 

 TPPについては、「国産米は安全・安心の視点から支持され、関税が引き下げられても強い。問題は酪農ほかの畜産だ。オーストラリア、カナダ、アメリカ等との規模格差は大きく、TPPで関税引き下げられたばあい打撃を受ける。この補てん策が不可欠。果物はTPPで関税が下がれば輸出を逆に伸ばせ有利」とし、「農民全体がTPP反対とは言えない。特にコメに依存しているJAは、反対の意味が薄く、農家をTPP反対で一色でまとめるのは困難になっている」と指摘。 

 全体とすれば、正か反かの対立軸でしかとらえなかった過去の学者先生と違い、広い知識と学生時代に経験した理論対立の図式から、「第3の現代に役立つ方向性」を打ち出した著として高く評価できる。後半は戦後の農業史を、豊富な人脈とからみで説明してくれ、これまた非常に読みでがある。

 希望者は、「一般社団法人東京農業大学出版会」 03-5477-2666 

 

2014年12月13日土曜日

埼玉県狭山市の「あぐれっしゅげんき村」は飲食スペースも広い!

 開店間なしの農産物直売所を訪ねるのは久しぶりである。埼玉県狭山市堀兼2085に、11月21日にオープンしたのがJAいるま野の「あぐれっしゅげんき村」である。直売所本体の売り場面積は約166.3坪。レジ5台。このほかレストランのスペースが30坪。建物全体では約313坪。営業時間は10~3月が9:30~17:30、4~9月が9:30~18:30、休日は第3水曜である。 



1.個性の発揮―地元特産品に広いスペース 

   新しく開通した幹線道路沿いにある。付近に人家はほとんどないが、直売所の広域集客性を考えると、車で来易く妥当な立地選定だと思う。ただし、反対車線を下ってきたばあい、交差点で右折し、約300mは迂回するのが欠点。駐車場は176台分と広い。暖かい時期ならくつろげるよう、屋外の屋根下にテーブル5、ベンチ2があり、最大26人ほど座れる。広域集客へ配慮と言えそうだ。冬場はサンルーフ状に使えればベターである。 

 店内に入ると、地元特産のサトイモ類、サツマイモ(川越と隣接)、葉物類(トンネル栽培多数)のボリュームに圧倒される。サトイモに八つ頭を合わせ6尺平台4本分。ホウレンソウ、コマツナ、チンゲンサイ、ターサイ、ミズナ等の葉物も6尺平台4本、サツマイモは6尺平台2本分ほど。狭山茶の茶所だが、お茶コーナーも12尺×7段?ほどだが、地元茶園13社ほどの品揃えをしている。「地元特産品」のアッピール面は、まず十分だ。 
<写真ー1>見通し良く、壁面の写真パネルも映える
 付加価値販売の面では、ベーカリーと惣菜販売が目立つ。ともにバックヤードを壁の仕切り、ガラスの仕切りのすぐ奥に設け、暖かい出来立てを提供できる。パンコーナーはガラス戸のついた8尺4段ほどの台?だが、120~160円ほどの各種菓子パン10種以上。298円のフランスデニシュ、オレンジロールなど販売。 

   惣菜は平オープンケース8尺、平台4尺に、背後の作業場で作った惣菜を並べ、半対面式で売っている。1パックキンピラ198円、ミズナのピリ辛煮198円、切り干し煮物120円、ポテトサラダ198円、ピクルス150円、鶏から揚げ198円、コロッケ1ケ100円、2ケ200円、地元開発サトイモ・コロッケ2ケ240円、大学芋1P200円などである。 

 ワンストップ(1ケ所で総て揃う)のため、鮮魚は多段オープンケース6尺で、1,200円と750円の刺身と塩干物を中心に22アイテムを販売・・・やや寂しい感じはする。肉類は多段オープン8尺で、牛・豚・鳥・加工が24アイテムで、魚と肉はテナントが販売。他に平冷凍ケース3尺で「彩の黒豚」の冷凍販売もしている。肉類はまずまずの充実ぶり。牛肉も買われていた。人が付き魚も人的な販促に努めているのが目を引く。
 

 各種日販品と言えるものは多段オープンケースで牛乳・色物・乳製品が6尺、豆腐・納豆も6尺、生・ゆで麺6尺、漬物・みそ等も6尺である。これらはいずれもケース内が満杯で、直売所としては最良の部類・・・そして全体としてもワンストップ面の配慮は良くできている。調味料ほかのドライ食品もJAコープブランドと、弓削田醤油など地元特産銘柄の比率を半々ほどにし、選択性を高めているので好感が持てる。

 一般に地場産品が少ない果物についても地方品も集め、平台6尺×6台を急傾斜の雛壇式に活用し、美しい陳列で充実している。 
<写真-3>特産の里芋はアイテム豊富の大量陳列


 <写真ー2>彩の国黒豚の冷凍パック販売
 
  
 
 1.

2014年12月7日日曜日

火山国の連携-日本・インドネシアでムラピ火山災害地のイチゴ栽培支援!


1.日本・インドネシアは共に火山国


    御嶽山の突然の噴火で死者・行方不明者63人が出た。そして、阿蘇山も噴火、遠い南の小笠原諸島の西之島でも日々噴石を続け島が拡大・・・日本は火山国だが、インドネシアも同様に火山国。首都ジャガルタのあるジャワ島の中部にあるムラピ火山(2,968m)が2010年の10~11月にかけ何回となく大爆発、火砕流を発生させ、死者322人、避難者総数38万人に及んだ。噴出物の総量は1.4億(御嶽山は50万トン)である。 歴史に記録された大噴火だけでも10回を数え、死者だけで1,000~3,000人を数える例も5回はある。

     インドネシアの活火山の数は130とされ、日本も110である。火山災害及びその対策の知識を共有し、助け合っていくことが大切である。ムラピ火山の場合、火砕流や火山灰のため真白に。多くの家畜が死に、トウモロコシ畑、水田は厚い火山灰に覆われ、農業は壊滅的な打撃を受けた。4年が経った今は、木々も生え緑を取り戻しているが、農業を再開するまでに至ってない。

 レッドゾーンと呼ばれる「立入禁止地区」では、火山が売りの観光をむりやり再開し、かろうじて貧しいその日暮らしをし、もの乞いをしている農家さんが一杯いるという。

 
犠牲になった家畜の白骨と津和野さん
  ここで紹介する津和野眞佐子さん(42才・埼玉在住)は、武蔵野音楽大学を卒業後にインドネシアに留学。卒業後も現地で「Yayasan Matahari Yogyakarta」 というボランティア組織も創り活動もしてきた。国内に戻ってからは入間市のFMチャピーのディスク・ジョキーも務めていた方だ。「留学時代、噴火で犠牲になった村で大変お世話になった。ムラピ火山の山麓は涼しく、有名な避暑地にもなっている。このため以前はイチゴ栽培もされていた。もう一度、日本で親しくなった福島県の放射能被害で営業できなくなったイチゴ農家の方を現地に招き、技術指導をしてもらい、農業活性化のお手伝いをしたい」という。さらに「このため、日本で新たな事業をして、支援資金をつくりたい」との夢を描いている。
噴火から1年後-バナナほか緑も回復したが、農業は遠し-右が津和野さん

2.イチゴ技術支援の基金募集!!


 津和野さんを紹介してくれたのは、本ブログで紹介しアクセスランキング2位の埼玉県農業大賞のベンチャー賞に輝いた入間市の有・桂ファームの栗原桂一氏だ。インドネシア在住の我が息子のためアドバイスをお願いしたのがきっかけで、津和野さんを紹介してくれたのである。大きな志に感銘を受けるとともに、「インドネシア・ムラピ火山被災地支援基金織」を皆さんに呼びかけ、ささやかながら資金集めに協力したいとの考えだ。(振込口座も作り、厳正に管理してもらえる人に依頼して本欄で収支を報告するつもりだが・・・この点の具体案はしばらく待ってほしい)
 
 本日のところは、まず現地の被害状況のごく一部を写真で見ていただくに留める。なお、日本のムラピ災害地区の支援はすでに始まっている。

              
火砕流で焼けただれたテレビなど
スズキのスクーターも見るも無残
  ➀地震計の多数設置(東京のチャレンジ)、②緊急時のボイス伝達網の確立(神戸の「FMわいわい」)などだが、地元の基盤産業の農業の活性化支援は進んでいない。津和野さんのイチゴ栽培指導・支援はこの起爆剤になり、日本・インドネシアの友好関係をさらに発展させることになる。ぜひ多くの友人にこの動き伝えていただきたい。イチゴは現地でも高額で売れる貴重品であり、地域活性化の効果を上げやすいのだ。