2014年4月15日火曜日

農産物直売所の数は全国16,816なのか23,560なのか?

 今回、農水省「6次産業化総合調査」(平成24年度実施・B欄)が、4月1日に公表された。農産加工、直売所、農家レストラン、民宿、水産加工等について詳しい情報がでている。ネットで検索すればすぐ出てくる。問題は直売所の資料である。全国の経営体の数が23,560、総年売上高8,448億円となっている。

 これまで、我々が頼りにしてきたのは農水省「農産物地産地消等実態調査」(平成21年度実施-23年7月25日公表・A欄)のもので、直売所数(今回は経営体数で、本来違いがないはずですが)16,816件、年総売上高8,767億円である。3年間経過してた今日、売上高においては近似しているものの319億円少なくなっている。逆に経営体数は1.40倍になり、,744経営体も増加している。明らかに大きな矛盾だ。 

 2つ統計に大幅な乖離があり、何を信じてよいか統計の信頼性を揺るがす。今回調査の「直売所認定の規定」も読んだが、「無人販売所、移動販売及びインターネットのみによる販売は除く」としており、21年度調査と一致しているように思えるのですが、経営体数の乖離があまりにも多過ぎる。今回の経営体の数の乖離は、主に農家のテント掛けハウス等の畑隅販売を計上したためと思われる(後記)。

表―1 21年と24年調査の数値比較   (左項目)


0

 分類

事業体数

0

   /調査年度

21年 A

24年 B

1

農業協同組合 小計①

1,901

1,950

2

農協女性部・青年部

427

 

3

生産者又生産者グループ

10,685

5,170

4

農家個人 (Bの分類)

 

11,090

5

農家法人 (Bの分類)

 

490

6

       小計

10,686

16,750

7

第3セクター

450


640

8

地方公共団体

203

9

       小計

653

640

10

会社   (Bの分類)

 

3,149

1,430

11

その他    

2,790

12

       小計④

3,149

4,220

13

合計 ①+➁+➂+

16,816

23,560

表―2 21年と24年調査の数値比較   (右項目)



総売上額(億円)

1事業体年売上(万円)


21年 A

24年 B

21年 A

24年 B

1

2,811

1,176

14,787

6,031

2

124

 

2,904

 

3

2,452

1,255

2,296

2,427

4

 

573

 

517

5

 

119

 

2,429

6

2,776

1,947

2,598

1,162

7

518


656

11,511


10,250

8

139

6,847

9

657

656

10,061

10,250

10

 

2,723

484

 

8,647

3,385

11

2,408

8,631

12

2,723

2,892

8,647

6,853

13

8,767

8,448

5,213

3,586

<注>1.横幅がないため、本来右に繋がるべき表を表―2として
下段に持ってきた。2.4つの小計を黄色のストライブとし、Aに
比しBが大幅に異なる場合、オレンジ色にした。3.Aに比しBが
大幅に異なる場合、水色とした。

 どこで差が生れたかを、類似項目について整理し比較してみた。結果は・・・21年調査と24年調査の乖離が大きいのは、(1)農協経営の直売所の売上高及び1事業体売上高、(2)生産者または生産者グループ等に分類される事業体数、売上高、1事業体売上高、(3)会社その他の直売所の経営体数、1事業体売上高だった。全体の売上高やその他の「小計」は比較的近似した数値も多い。
 

特に経営体の数の差を生んでいるのは生産者及び生産者グループの小計で、約6,000件のふくらみがある。農家個人が畑隅にブルーシート掛け等の2~6坪ほどのトンネル状のハウスを作り販売している売上高の小さいものが、かなりカウントされているものと推定される。確かに小計➁欄の農家個人のばあい、1経営体当たりの年商は517万円、1日当たりでは1.4万円と極めて少ない。
 
・・・東京の23区+多摩地区の中央線や総武線の沿線部にはこのような例が無数にあります。つい最近も昭島市、立川市を車で走り実感した。また武蔵野市の直売所の紹介パンフでは全直売所がこのタイプ。都市部と近郊部にはこうした例が多く、統計数字が膨らんだとみるべきだ。6次産業化の調査となると、これらが無視できないためと言えよう。
 
なお、これまでの農水省、まちむら機構、JA等の直売所統計のどれもが、要素別のクロス分析がなされておらず、コンサルタント泣かせの統計である。クロス分析ができるはずなのに、各要素の平均値と分散状況が示されるだけで、売り場面積(時にレジ台数または従業者数)に対応した年商とか客数、駐車台数等の相関が示されずに終っており、税金の無駄使いになっているのが残念である。

2014年4月11日金曜日

ファミリーマートがカット野菜の鮮度保持にP-プラス新方式!

 消費者の「スーパー等の買い物先」の選択基準は、当方=スーパー開発の調査によれば、1位「近さ」70.6%、2位「鮮度」61.3%、3位「価格が安い」35.6%・・・となり、物理的条件の「近い」を除けば、「鮮度」が最大の支持率である。
 

生鮮品、とりわけ野菜を中心に売る農産物直売所の購買動機からすると「鮮度」の支持率は92.3%にもなる(3店1,200人調査の1店平均)。野菜では鮮度を制するものがシェアを制するとさえ言える。 

 
    野菜は肉や魚と違い、収穫後も生きている・・・つまり呼吸している。鮮度を維持するには、パッケージを工夫し、低温や低酸素・高CO状態で呼吸を抑えつつも、呼吸を可能にすべきである。 


ファミリーマートは、3月下旬からPBブランドのカット野菜について、鮮度保持機能が良い、ミクロの穴のあいたP-プラスというフイルムを使ったパッケージにしていくことを発表した。カット野菜は特に呼吸量が増し、痛みが激しいからだ。これにより、見た目の変色や臭気の発生も抑えられ、鮮度が維持されるのでロスもなくなる。1石2鳥のフイルム利用である。 

<写真>ファミリーマートのミックス野菜P-プラス包装

P-プラスはフイルムの種類は問わず、むしろ中身の種類に応じ、酸素通過量を微細な穴の数でコントロールする技術の革新である。このため住友ベークライト株の資料によれば、P-プラスについて・・・

①呼吸量の多いカット野菜→使用効果大きい。
もともと呼吸量の少ないタマネギ、ダイコン、レンコン等→使用効果が期待できない。
肉・魚などはもともと鮮度維持の原理がちがう→使用効果が期待できない。
④青果でも冷凍したら呼吸しなくなる→使用効果が期待できない。
とのこと。以上を理解し使用するよう留意すべきだ。 

 P-プラスは、カット野菜だけでなく、各種野菜の産地包装―出荷にも活用されており、資料によればリンゴ、マイタケ、インゲン、アシタバ、ニンニク、菜ハナ、リンゴ、スダチ等にも活用されている。

 

2014年4月5日土曜日

兵庫県養父市の国家戦略特区構想-山間地農業の活性化!

   政府は、3月28日に全国計6ケ所に国家戦略特区を指定することを決めた。その1つが兵庫県養父市(やぶし)である。農業委員会の事務の一部(農地移動)の権限を市に移管することなど、農業の改革が基本である。本事例については、ネットに「国家戦略特ワーキンググループ提案に関する集中ヒアリング」が出ている。これを中心に何をどうしょうとしているのか、見てみたい。 

Ⅰ.養父市の現状は超高齢化と零細農業

 養父市は「やぶ医者」の言葉の発祥地・・・実際は逆に名医の里とのこと。兵庫県北部の但馬地区に属し、平成16年に合併して誕生。12年の人口30,110人、22年には26,501人で、約12%も減少。市の面積422平方メートルのうち84%が山林。農地面積2,500haで、1農家の耕作面積は平均0.38haで全国平均の2.2haの1/5.8倍に過ぎない。山間地という部類で耕作放棄地が多い。 

 経済規模は平成24年で約560億円。農業はうち4.1%の約25億円。平成32年までに、高齢化約や人口減少で経済活動は約100億円縮小すると見込まれている。 

 超高齢化が進み、市人口のうち100才以上が1万人に対し15.4人(兵庫県の平均4.8人)、65才以上の高齢化率33%、75才以上20%.それだけ健康で長生きしている地区。今回構想では、労力不足のなかで元気なお年寄りのパワーも活用することが含まれている。 

Ⅱ.現状打破の先進的な実践

 市長は2期目を迎え、政策綱領のテーマは「産業を育て、人を育てて新たな命を生む町」として、経済再生を考え先駆的な実践をしているが、その概要は・・・ 

1.約100億円の経済縮小を考え、100億円の新たな経済効果を創造する。

2.行政の施策では、民間活力を引き出せない面があり、平成24年2月に市が100%出資の株式会社「やぶパートナー」を設立。民間から副市長を選び、社長とした。

3.「やぶパートナー」は、企業に出資を行う一方、ビジネスモデルを作り事業化を進めていく。そして収益を得る。「やぶパートナー」は、すでに農地の再生、空き地を使った米つくり、消費者との交流等を行っている。

4.官民協同で実施する公共サービス事業=PFIとして、温泉事業、道の駅を行い、 市の直轄工事に民間の専門家を配置する事業=CMとしてトンネル掘りも行っている。

 また民間との共同出資会社を立ち上げ、民間企業を育成支援をしつつ、農地の統合的な地経営、木彫を生かし地域振興もしている。さらに廃校の体育館を使い、産官学連携のスマートアグリも進めている(この事業者はオリックス)。

5.農業の活性化のため、農地をまとめ、任せる相手を決め担い手を育てる。元気な高齢の人材も活用し、養父市の特徴である無農薬有機、資源循環型の農業、蛇紋岩米(稲作)、但馬牛、八鹿豚、ブロイラー、高原野菜(特にダイコン)、朝倉山椒などの振興もしていく。

6.シルバー人材センターが頑張っているが、現在443人。平均年齢69.3才、請負事業規模2億4,000万円(件数の60%は民間事業)だが、もっと参加してもらい、農業を中心にした地域起こしに貢献してもらう。 

Ⅲ.規制緩和の主な要望は2点

 以上の改革推進のため法的な規制緩和が浮上し、戦略特区の申請がされたわけで、その具体的内容は以下の2点である・・・ 

1.農業委員会の主な仕事は、①土地利用計画の立案と土地賃借や所有権の移動決定という2つがあるが、仕事がオーバーな面がある。については、市に権限を移管して欲しい。現在市と農業委員会の関係は良好で、委員会も了解している。

また新年度から発足する農地中間管理機構は県段階に設置される予定だが、地元の実態を知っている市段階がその役割を担うのが望ましい。また農地転用の認可は県・国にあるが、これも一部は市に任すのが望ましい。 

2.シルバー人材センターについては、労働時間が週20時間以内、連続して31日以上働けないことになっているが、もっと運用を弾力的にし、長い労働時間にして欲しい。せめて週30時間、連続1年くらいの雇用にして欲しい。そうすれば収入を得ながら地域活性化に貢献できる。

  制約違反のペナルティーは明確でないが、厚生省から補助金が出るかわり、「制約遵守」の厳しい通達がたびたびくる。労働時間が少ないと人材登録者が少ないので、作業のローテイションが組めない。なお地元に労働力が少ないので、若い人の雇用機会を奪うことにはならない。 

Ⅳ.要望の背景は何かー精神的負担も加味

規制緩和を望む背景を紹介すると、まず第1の農地委員会だが、全国の状況を紹介しておくと、原則1市町村に1つの委員会を設けることとし、現在1,743市町村に1,

713の委員会がある。委員の任期は3年、月額報酬は3万円。地域の農業者から選挙でえらばれる選挙委員と、各団体(農協、農業共済組合、土地改良区)から1人ずつ推薦で選ばれる専任委員からなる。全国平均すると農業委員は21人で、選挙委員16人、専任委員5人である。
 

問題は地域には自治会委員、農協理事などいろいろの役職があり、養父市のように高齢化が進むと、なり手も減少する。加えて委員になれば地元の農地利用計画の立案や、耕作放棄地など遊休地の調査などの仕事もあり、そのうえ農地売買や賃借の許可をするとなると、極めて過重な労働。しかも、売買や賃貸の許可となると各戸の利害関係もからみ、決定をくだすための精神的負担も大きい。 

この負担軽減のためにも「所有・賃貸による移動許可」は市に移管すべきだというのだ。そして農業委員には、遊休地の調査や地元のよりよい農地の利用計画立案に専念してもらいたい・・・というのだ。 

 また現在国が検討中の農地集積中間管理機構を県に置くとしたばあいも、現場の実態が正確につかめず、これまた「不公平感が拡大」、「市町村の意向に沿わない集積」にもなってしまう。
 

・・・以上両面からの規制改革提案なのである。養父市のばあい、「山間地で平坦地と同様な大規模化をしても農業改革の実りに通じない」という面がある。ときに、シルバー人材センターの人に貸与とか、有機農業をしたい若者に貸与するなど、農業活性化の道は多様であることも背景にある。 

 シルバー人材センターの制約の緩和も深刻な問題のようだ。あらゆる面で、若手の人材が確保しにくい。当面元気な人には多いに働いてもらいたい。養父市の長寿の秘訣は各人が少ないなりに農地を持ち、働いていることも理由の一つ。となれば「若い人の職場を圧迫し、賃金も下げる」といった杓子定規な制約をはずすことも正論に映る。実際、養父市には年365日働ける、そして働きたいシルバー人材も多いという。 

 構造改革戦略特区の問題は「他山の石」ではない。1,743の市町村はそれぞれ立地も、農業の平均経営規模も、特産品も、働き手の年齢も変わっている。それぞれの個性に応じ自由裁量の余地を十分に残した行政でないと、日本は改革されないのではないか。