Ⅰ.養父市の現状は超高齢化と零細農業
養父市は「やぶ医者」の言葉の発祥地・・・実際は逆に名医の里とのこと。兵庫県北部の但馬地区に属し、平成16年に合併して誕生。12年の人口30,110人、22年には26,501人で、約12%も減少。市の面積422平方メートルのうち84%が山林。農地面積2,500haで、1農家の耕作面積は平均0.38haで全国平均の2.2haの1/5.8倍に過ぎない。山間地という部類で耕作放棄地が多い。
経済規模は平成24年で約560億円。農業はうち4.1%の約25億円。平成32年までに、高齢化約や人口減少で経済活動は約100億円縮小すると見込まれている。
超高齢化が進み、市人口のうち100才以上が1万人に対し15.4人(兵庫県の平均4.8人)、65才以上の高齢化率33%、75才以上20%.それだけ健康で長生きしている地区。今回構想では、労力不足のなかで元気なお年寄りのパワーも活用することが含まれている。
Ⅱ.現状打破の先進的な実践
市長は2期目を迎え、政策綱領のテーマは「産業を育て、人を育てて新たな命を生む町」として、経済再生を考え先駆的な実践をしているが、その概要は・・・
1.約100億円の経済縮小を考え、100億円の新たな経済効果を創造する。
2.行政の施策では、民間活力を引き出せない面があり、平成24年2月に市が100%出資の株式会社「やぶパートナー」を設立。民間から副市長を選び、社長とした。
3.「やぶパートナー」は、企業に出資を行う一方、ビジネスモデルを作り事業化を進めていく。そして収益を得る。「やぶパートナー」は、すでに農地の再生、空き地を使った米つくり、消費者との交流等を行っている。
4.官民協同で実施する公共サービス事業=PFIとして、温泉事業、道の駅を行い、 市の直轄工事に民間の専門家を配置する事業=CMとしてトンネル掘りも行っている。
また民間との共同出資会社を立ち上げ、民間企業を育成支援をしつつ、農地の統合的な地経営、木彫を生かし地域振興もしている。さらに廃校の体育館を使い、産官学連携のスマートアグリも進めている(この事業者はオリックス)。
5.農業の活性化のため、農地をまとめ、任せる相手を決め担い手を育てる。元気な高齢の人材も活用し、養父市の特徴である無農薬有機、資源循環型の農業、蛇紋岩米(稲作)、但馬牛、八鹿豚、ブロイラー、高原野菜(特にダイコン)、朝倉山椒などの振興もしていく。
6.シルバー人材センターが頑張っているが、現在443人。平均年齢69.3才、請負事業規模2億4,000万円(件数の60%は民間事業)だが、もっと参加してもらい、農業を中心にした地域起こしに貢献してもらう。
Ⅲ.規制緩和の主な要望は2点
以上の改革推進のため法的な規制緩和が浮上し、戦略特区の申請がされたわけで、その具体的内容は以下の2点である・・・
1.農業委員会の主な仕事は、①土地利用計画の立案と➁土地賃借や所有権の移動決定という2つがあるが、仕事がオーバーな面がある。➁については、市に権限を移管して欲しい。現在市と農業委員会の関係は良好で、委員会も了解している。
また新年度から発足する農地中間管理機構は県段階に設置される予定だが、地元の実態を知っている市段階がその役割を担うのが望ましい。また農地転用の認可は県・国にあるが、これも一部は市に任すのが望ましい。
2.シルバー人材センターについては、労働時間が週20時間以内、連続して31日以上働けないことになっているが、もっと運用を弾力的にし、長い労働時間にして欲しい。せめて週30時間、連続1年くらいの雇用にして欲しい。そうすれば収入を得ながら地域活性化に貢献できる。
制約違反のペナルティーは明確でないが、厚生省から補助金が出るかわり、「制約遵守」の厳しい通達がたびたびくる。労働時間が少ないと人材登録者が少ないので、作業のローテイションが組めない。なお地元に労働力が少ないので、若い人の雇用機会を奪うことにはならない。
Ⅳ.要望の背景は何かー精神的負担も加味
規制緩和を望む背景を紹介すると、まず第1の農地委員会だが、全国の状況を紹介しておくと、原則1市町村に1つの委員会を設けることとし、現在1,743市町村に1,
713の委員会がある。委員の任期は3年、月額報酬は3万円。地域の農業者から選挙でえらばれる選挙委員と、各団体(農協、農業共済組合、土地改良区)から1人ずつ推薦で選ばれる専任委員からなる。全国平均すると農業委員は21人で、選挙委員16人、専任委員5人である。
問題は地域には自治会委員、農協理事などいろいろの役職があり、養父市のように高齢化が進むと、なり手も減少する。加えて委員になれば地元の農地利用計画の立案や、耕作放棄地など遊休地の調査などの仕事もあり、そのうえ農地売買や賃借の許可をするとなると、極めて過重な労働。しかも、売買や賃貸の許可となると各戸の利害関係もからみ、決定をくだすための精神的負担も大きい。
この負担軽減のためにも「所有・賃貸による移動許可」は市に移管すべきだというのだ。そして農業委員には、遊休地の調査や地元のよりよい農地の利用計画立案に専念してもらいたい・・・というのだ。
また現在国が検討中の農地集積中間管理機構を県に置くとしたばあいも、現場の実態が正確につかめず、これまた「不公平感が拡大」、「市町村の意向に沿わない集積」にもなってしまう。
・・・以上両面からの規制改革提案なのである。養父市のばあい、「山間地で平坦地と同様な大規模化をしても農業改革の実りに通じない」という面がある。ときに、シルバー人材センターの人に貸与とか、有機農業をしたい若者に貸与するなど、農業活性化の道は多様であることも背景にある。
シルバー人材センターの制約の緩和も深刻な問題のようだ。あらゆる面で、若手の人材が確保しにくい。当面元気な人には多いに働いてもらいたい。養父市の長寿の秘訣は各人が少ないなりに農地を持ち、働いていることも理由の一つ。となれば「若い人の職場を圧迫し、賃金も下げる」といった杓子定規な制約をはずすことも正論に映る。実際、養父市には年365日働ける、そして働きたいシルバー人材も多いという。
構造改革戦略特区の問題は「他山の石」ではない。1,743の市町村はそれぞれ立地も、農業の平均経営規模も、特産品も、働き手の年齢も変わっている。それぞれの個性に応じ自由裁量の余地を十分に残した行政でないと、日本は改革されないのではないか。
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