長引く不況で、スーパーはどこも価格競争に走り、デフレ解消の出口が見えない。だが主婦の「食品購入ルートの選択基準」を切り口とした食のライフスタイル分析からすると、主婦の安さ志向の構成比は26.7%と少数派である。 スーパーはもちろん、直売所や農産加工品の販売に当ってもこの点に留意すべきである。
特定セグメント(例えばライフスタイル)→顧客ターゲット→業界内のポジショニングと進むべきマーケティング理論の構築が叫ばれながら、スーパーや飲食店等は一律「安さ」を前面に打ち出すだけのマーケティングになり、自らの首を絞めている。逆に品質や珍しさ(個性やこだわり)を求める客の満足から、ますます離れってしまっている。多元的なライフスタイルを意識し、多元的なマーケティングを展開しなければ、食品スーパーやGMS(総合スーパー)は利益が出ず、不況が長期化すればその一部は生命が絶たれる。
ここで紹介する主婦のライフスタイルは、9都県約20地区500世帯の訪問調査の分析結果である(栃木を除く関東と長野、山梨、静岡。実際は青森から鹿児島に至る25都道府県で1万人以上の訪問調査をしてきた)。特定地域に片寄った分析ではないことを断っておきたい。また「食品の購入先をどのような理由で選ぶか-選択項目24)を切り口としたライフスタイル分析である。
ライフスタイルは①親の生き方ほかの家庭環境、②居住地の商業環境などで長年かかって形成されたもので、過去の分析で景気の良し悪しにあまり影響されないことを確認している。なぜなら、デフレで価格全体が下がれば、安さ志向の主婦はさらに下限狙いの買物をし、非価格志向の主婦は「今は安くて当然」として、やはり鮮度や品質、品揃えといった別の価値を追求する。このようにライフスタイルそのものは簡単に変えない。
店の選択基準(非店舗購入もあるためルートが正解)の24因子を基に分類すると・・・
①鮮度・品質志向のQ型(Quality)…生鮮品の鮮度、安全、
美味、品位高い
②品揃え重視で華美な消費志向のV型(Variety)・・・1ケ所で
総て揃う、品揃え豊富
③安さ志向のP型(Price)・・・安い、チラシ見て、ポイントが付く
④便利性志向のC型(Convenience)・・・近い、買い慣れ、買
い易い、勤め帰りに寄れる、ついでに寄れる、散歩がて
らに寄れる、行き易い、駐車し易い、配達、長時間営業
この4分類の単独ないし2~3の組み合わせにより、P、PQ、PV、PQV、Q、QV、V、C単独の8つのスタイルに区分できる。店の選択基準以外に対しどう反応するかも、追調査をして、各スタイルの特性を深めてきた。
1.現代は便利性の時代
ひとまずライフスタイルと離れると、全国55地区・13都府県別の平均からすると、便利性志向=Cの因子に該当するものが10/24と多く、その支持率を合計すると全体の43.2%にのぼる。ちなみに品質志向=Qは19.8%、品揃え=Vが16.8%、価格志向=Pが14.0%である。、便利性が突出している。そして90%以上の人がTPOに応じて使い分けるためC因子を持っている。まさに現代はコンビニエンス(便利・簡便さ)の時代と言える。 これは簡便性のある食品の消費とも深く関係してくる。ボトルや缶の飲料、インスタント食品(レトルト含む)、冷凍食品、惣菜、弁当等ばかり伸びているのもこのためである。
90%以上の主婦がC因子を持つのは、家事・育児だけでなく、正規やパートの仕事があったり、趣味を深めたい・・・等々の忙しさのためである。現代は「時間の有効利用時代」でもあり、C因子の時代でもある。兼業主婦だから後記のC単独型と限らない。兼業主婦にC型は20%ほど多いに過ぎない。
ところでCはC因子は90%以上に含まれているため、総てC因子の人のみ「C単独型」にしないと、スタイルの分類ができない。分子/分母に共にCを含む場合は数学的にカットしてよい。
2.多いのはQ型・QV型でP型は少数派
昼間の訪問調査のため、世帯持ちの主婦中心の構成比になるが、スタイルで最も多いのがQ型の17.9%、QV型の17.5%で、以下にC単独型14.7%、P型13.3%、PQ型13.3%、V型9.5%、PV型7.8%、PQV型6.8%が続く。
P型はまだ所得も低く、幼児等のいる20~30代の若年主婦に多いが、人口の年齢構成も関係するため少数派である。関与因子別の構成比を出すと、Q型36.7%、V型26.9、P型26.7%、C単独9.7%で、P型は1/4程度に過ぎない。以上から「安さだけが総てではない」と言い切るのだ。
スタイル別の特徴は、後日に詳細な説明するが、Q型は鮮度・品質本位に考え、野菜はA店、魚はB店、精肉はC店と購入先を選び、かつ専門店、スーパー、総合スーパー、生協、農産物直売所の別なく選択する層である。惣菜は工夫して主に自家で作り、購入度は低い。
V型は華美な消費層を含むが、総合スーパー=GMSを好み、惣菜も美味・珍しいとなればデパ地下などで買い進む。
P型は20~30代の若い主婦に多い。所得の低さもあって、チラシで動いたり、エブリデ―・ロープライスの店好みである。C型は食生活以外への関心が強く、便利性本位の買物をし、多くの店に対して中立である。
ところで、マーケティングでは「消費の多様化・細分化を考え、特定セグメント(特定ライフスタイル等)をターゲットとしていくべき」とされているが、食品は100円、最大でも2,000円程度のものが多く、かつ顔や外見からスタイルを判断できない。このためスーパーや最近ブームの農産物直売所でも、ライフスタイル分析なしのマーケティングがされてきた。
実際はライフスタイルを意識しないまでも、以下のとおりセグメントに対応している例も多い。また都会でなくむしろ農村において、地産地消のうねりのなかで、Q・V対応の美味・健康・安全・環境等のこだわりを考えた付加価値販売が活発に論じられ、実践されている。
(1)例えばスーパーの中で粗利益率や粗利益生産性の高い精肉では、同じ豚ロース肉100gで輸入98~148円、国産248円、薩摩の黒豚348円と言ったように3通りの品揃えをし、結果的に生鮮3品の中で最も高い粗利益率を実現している。鮮魚でも塩サケ、しらす、たらこ・明太子などはピン・キリの品揃えをし、広い消費に応えている。こうしたセグメント対応が商品全般の販売に及ぶべきである。
(2)優良スーパーとされるヤオコーは、毎日入口の果物の陳列を変え、美しいカップ入で販売をし、季節の果物はほぼ糖度表示をしているし、完熟、木熟、陽当たり、きづっこ(傷っこ)・・・などの表示品も多い。トレーサビリティ品や有機野菜のコーナーもあった時代もあるが、いま地場野菜コーナーは必ず設けている。ヤオコウーならではのPB商品も多い。トレーサビリティ対応のSEICAカタログ商品を多数揃えてもいる。イオンの「グリーンアイ」やヨーカドーの「顔の見えるシリーズ」も、こだわり客を対象にしたセグメント政策の1つといえる。
(3)小型スーパーの東京都羽村市の福島屋は道路を挟み、アップグレイドの店とディスカウントの店を持つ。前者では生産者と話し合って育てた「自然農法の米や野菜やその加工品」も多数扱い、手製のPOPで細かい表示もし、ライフスタイルの多様性に対処している。産直野菜をメインとしたレストランやカフェ、洋菓子店、生花店も持ち、コミュニケーションの場(レストランやカフェ)も確保し、多様な切り口で消費者を取り込のんでいる。社長の福島徹氏は「食の理想と現実」(幻冬舎、700円+税)といった著書も書いているくらいだ。・・・別項で2回紹介。
(4)農産物直売所は、いま伸び盛りからやや転換期にさしかかっているが、繁盛店は規格外品の販売を中心とせず、例えば「みずほの村の市場」(茨城県つくば市)の場合、「今以上に良い品を出荷しなければ扱わない。出せば高く売るよう売価設定させる」とし、直売所のブランド化を進めている。調味料や菓子にしてもナショナルブランド品ゼロで、全国の珍しい物ばかりだ。主力の野菜コーナーには毎日7品もの、薄く味付けされた試食品が置かれている。裏の温室では30種ほどのランが売られている。また直売所のなかには、地方の一流ブランド農産品ばかり集め、全国に向けギフトとして発送しているところもある。
「 主婦の食のライフスタイル」の講演に応じます。パワーポイント既存。