今回著作は、これらの総決算ともいうべきもので、実に細かいデーター、多数の見解を紹介しつつ、鋭利に農業や農協の現状に切り込み、妥当性のある発展策をズバリと提示している。「玉虫色」の結論ではないのが立派である。かつ共鳴できる改善策・発展策が多い。
第1部
日本農業・緊迫の論点
第2部
協同組合運動の軌跡と展望
第3部
巡り合った人々の思い出と事件
第4部
世を去りし人を悼む 計269ページ
農協マンだけでなく、農業関連企業に携わる企業マン、スーパーやコンビニエンスといった食品小売業の幹部、そして農業経営コンサルタントも必読の書である。忙しいばあい特に第1部(114ページ分)だけでも読む価値がある。何故かと言えば、第1部では病める日本農業の姿・・・農業人口の減少、高齢化、担い手不足、耕作放棄地の拡大の4要素について、数字的根拠も示し正確に捉え、その対応策に言及しているからだ。
「社団法人・家の光協会」はJA系列の出版社で、鈴木氏も農協マンの一翼を担ってきたが、農協流の考えに組することなく、外部企業の農業参入、TPP、農協解体論等についても、実に客観的に述べている。
氏は「日本農業のキーワードは<まだら模様>」と見、家族農業と会社農業の並存、農業資本と商系他の外部資本の並存を現実の姿とし肯定し、「まだら模様」と表現している。
例えば外部企業参入も、「耕作放棄地が全農地453万ヘクタールの10%近くの40万ヘクタールに及び、外部参入が起こる隙間を作った」としたうえで、セブン&アイ、ローソン、イオン、東急ストア、西友、生協ひろしま、ファーミリーマート、ワタミ、サイゼリア、モンテローザ、大戸屋、ほか計20ほどの企業例をあげ、さらに7商社、10社以上の製造メーカーの事例を細かに紹介している。
「外部企業の新規農業参入は、明らかに侵略であり、蚕食だが、実際に農作業を担当するのは、多くの場合JAの正組合員。新たに雇用の場を得たことになる」。また「市場出荷による価格の乱高下に悩まされる農家にとって、やや低賃金にになっても(注:契約取引による定価格)小さな安定経営につながる」と、プラス面も正当に評価。
さらに企業参入に対抗するには、農業者は農業法人化を図り、マネージメント能力を付加すべきだ・・・とするとともに、JAもまたJA出資型法人の集落営農を伸ばし、大規模化やマネージメント能力向上のメリットを発揮すべきだ・・・と明確な提案をしている。
JA全中の解体論については、最終的にはすでに1県1農協に統合した県もあり(奈良、香川、佐賀、大分、沖縄はすでに完了。島根は2015年3月予定)、これを全国的に進め、内部的合理化を図り、商社との競争力をつけることを提案。伊藤忠商事系のファミリーマートによるAコープ店舗のてこ入れも紹介し、商社との連携も1つの発展策と捉えている。
TPPについては、「国産米は安全・安心の視点から支持され、関税が引き下げられても強い。問題は酪農ほかの畜産だ。オーストラリア、カナダ、アメリカ等との規模格差は大きく、TPPで関税引き下げられたばあい打撃を受ける。この補てん策が不可欠。果物はTPPで関税が下がれば輸出を逆に伸ばせ有利」とし、「農民全体がTPP反対とは言えない。特にコメに依存しているJAは、反対の意味が薄く、農家をTPP反対で一色でまとめるのは困難になっている」と指摘。
全体とすれば、正か反かの対立軸でしかとらえなかった過去の学者先生と違い、広い知識と学生時代に経験した理論対立の図式から、「第3の現代に役立つ方向性」を打ち出した著として高く評価できる。後半は戦後の農業史を、豊富な人脈とからみで説明してくれ、これまた非常に読みでがある。