2012年11月3日土曜日

援農ボランティア「すずしろ22」に学ぶ!農業の労力不足対策

                   
 農業就業人口は昭和55年の697万人から、平成22年には261万人となった。6.6%も減少した。しかも22年には就業者の74%が60才以上である。昨年から4ヶ所ほど「新規就農者する人の研修講座」にも招いていただいたが、なかなか、「就農者求む」のニーズに応えるだけの応募者はいないように思う。

 第2、第3の手だてても考えておかないと、直売所はじめ出荷者不足も進行し、農業の現状維持が難くなる。

 市町村が兼業農家で停年退職し、農業にリターン出来るようになった人を登録してもらい、その人たちに作業請負や借地農業を拡大してもらうのも大切だ。75~80歳までは十分即戦力になるはずだ。もう一つは農業者と消費者と農消連携のネット・ワークを構築し、農作業の部分部分を担当してもらう方法だ。

1.援農ほか3つが柱

 以前に紹介した東京の八王子市で活躍する「NPO法人・すずしろ22」が、農消連携の進んだモデルである。前理事長の合津秀雄さん、事務局の飛田恵美子さんの2人に、先日直接話を聞いたが、合津さんは「すずしろを参考にした組織が全国に広がることを願っている」としていた。

 そして、事後にも「①人手が必要な農家がある、②農業に関心のある市民がいる・・・③両者のニーズをコーディネイトすべきである、④責任性・継続性・両者の対等性に配慮して、有償ボランティア活動とする、⑤ある程度の実績に基づき、この活動を横に向け拡大展開できたら素晴らしい」と、意見を整理しメールで送ってくれた。

 「NPO法人すずしろ」は平成19年に誕生したが、その目的として「広く一般市民と農家を対象として、援農ボランティア、農作業の受託事業及び地場野菜供給事業を行い農業の活性化をはかる。同時に食料供給、防災、環境保全、農耕文化の継承など多面的価値ある農地を、都市住民の生活環境の中に存続させ、社会教育の推進や環境の保全に寄与する」と定款で謳っている。そして消費者の「農作業を手伝ってみたい」と云うニーズと、農業者の「農作業を手伝って欲しい」のニーズを橋渡しして、大きな成果を上げている。

2.すでに援農年12,000時間以上

 具体的には1.援農作業、2.農産物販売、3.農地の活用の3本柱で活動している。現在会員は農家約25軒、消費者約140人で、個人正会員1,500円、団体会員10,000円、個人・団体の賛助会員1,000円の各年会費を払っている。

まず1の援農作業だが、右肩上がりで昨年は12,000時間の援農作業をし、24年度は14,000時間を予定、将来的には30,000時間を目標にしている。援農1時間につき540円を農家会員から徴収、消費者会員に460円を支払い、80円を本部運営費に充てている。さらに内60円が援農業務の担当者に支払われている。

会員同士のやりとりで、かつ有償だが安い金額である。交通費は払われていない。農家側が労力支援の希望を時間単位で出し、作業時間について帳票で管理、毎月月末に締めて、15日までに事務局に入金。入金なきばあいは事務局で集金に回る。

作業はトマト他の野菜の種まき、苗植え、堆肥撒き、土寄せ、草取り、収穫、出荷作業、果物ではブルーベリーのせん定・枝片づけ、ネット張りと片付け、収穫、梅のもぎ取り、稲作では苗の補植、はざ架けなど。畜産はまだ依頼がないとのこと。また機械作業は刈り払い機、耕運機は認めるも、チエンソーは認めてない。つまり危険の少ない補助的な作業が中心である。

問題もいくつかある・・・

1.たとえば、8月は草取りなど援農ニーズのピークになるが、暑いので援農者が少ないといったこと。云った問題も起きる。

2.作業の失敗で損害が出た場合の保証。これは当日の作業報酬の範囲内で弁済する約束。3時間労働であれば1,620円の弁済だ。

3.つぎに作業中の事故に対する保証。労災保険が適用されないので、危険な労働は避けるとともに、万一の場合は個人の健康保険で対応している。将来、NPOとして保険会社の任意保険に入る方法も考えているようだ。

年金などで恵まれた消費者会員も多く、「農業をときどき楽しみたい」ということで、報酬額にこだわらない面がある。会報には「作業は厳しかったが、その後の充実感がたまらない」といった言葉が多く寄せられている。

3.農産品の販売は学校給食や宅配

2の農産物の販売ルート開拓については、「例え有償の援農を受けても、それ以上に儲かるように」と、直売的な学校給食、イベントでの販売、宅配に力を入れている。学校給食は八王子市内に68~69の対象校があるが、28校に現在供給している。農家に荷を取りに行き、学校に運ぶ。合津さんは「本気度」を見てもらうため乗用車を捨て、軽トラックまで購入し配達に当たっている。

チームがいくつかあり、某班では4月人で月1~2回直売イベントをしている。1回25,000~33,000円の販売額という。昨年秋までは月3~4回やっていたが、地産地消が進み、競争が厳しくなり、1ヶ所閉店したとのこと。また宅配は注文を受け1パック1,000円の詰め合わせを発送している。人材や車を確保できれば、まだまだ伸ばせるとのことである。

4.農地活用は遊休地の活用で市民農園

 3の農地活用は「遊休農地の活用を農家・市民・環境の3面から期待されている活動」と位置づけている。1つは「農作業受託方式」で、キーマンが生れ、10~20aの土地を請け負ってもらう方式を目指している。2つめの市民農園の開設・運営はすでに18人ほどが関与し、1区画約15坪(50㎡)を21区画運営し、年41万円ほどの収入になり、半分が農家(地主さん)に還元されているという。農園にはNPO開設型と農家開設型の2種の市民農園があり、前者はNPOの管理で後者は農業者の管理だ。

5.作業の高度化も必要ではないか

援農については農家と援農者が相互に評価することは、現在されていないという。人間関係を良好に保つための配慮と思う。しかしさらに進む人手不足を考えれば、実地研修も強化し能力の向上をはかるとともに、作業の難易度、その達成度、作業環境などの相互評価をし、能力に応じた向き向きの人を派遣し、時給もAランク(高度の作業に耐える)940円、Bランク(中程度の作業に耐える)740円、Cランク(軽・補助作業レベル)540円とするなどして、熟練農業者の代換えも可能な人材を育てることも必要だと思う。つまり半専従希望者、ときに新規就農者になり得る層が出てくることが望ましいように思う。

やや古い農水省統計によれば、露地野菜24品の農家所得は1時間平均1,343円となっている。直売所出荷の農家であれば、1.5倍の約2,000円にはなっているはず。540円を仮に上限940円にしても、農家にメリットはあるはず。

 機械作業や農薬散布など、高度の作業を担当すれば危険度も高まる。これには、民間保険会社の任意労災保険にNPOなり団体で一括加入する方法もある。当然、報酬の中に保険料負担分を含ませる等の工夫も必要になる。交通費の支給も課題になるだろう。

いずれにしても、すずしろの実践を全国に普及する必要性が益々増している。それには各市町村に、市民3人、農家3人ぐらいのコアになるキーマンがいれば十分スタートが切れるように思う・・・必ず農家と市民の相互にニーズが存在するからだ。あとは「地域活性化」の視点から市町村や農業委員会の方等の協力を引き出すことではないか。
 
「NPOすずしろ22」の定款もいただいている。必要であればメールをくださればお送りするので、参考にしていただきたい。

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