2014年9月1日月曜日

主婦の買い物行動とスーパーのリサーチ技法➂-交通手段と買い物頻度!

1.自動車率は地域により15~60% 

車の普及で、「モータリゼーション中心の買い物になりつつある」と思いがちだが、食品の購入のばあい、商圏半径は0.8~2.5kmのため、全国66ケ所の当方統計では、表-1のように自動車36.6%、自転車35.4%と、二つが拮抗している。徒歩はこれらの半分の17.9%だ。配達という非店舗購入も5.6%あることを忘れてはいけない。 

1世帯の自動車購入費は平成8~10年に最高額を示し、その後は漸減、21年からやや回復傾向にある。以上からすれば、すでに車社会のニーズは満たされ、全国的には表のレベルが一般的と考えてよい。高度な車社会の長野の優良スーパー・チェーンのばあい、年約500万円に1台の駐車場になっている。 

したがって長野の%を基準に、地域の自動車率を調べ 地元率/長野率=a とし、年商予測万円÷(500万円÷a)=上限駐車台数 となる。そして面積は1台10坪が標準ではないか。山梨のリサーチの際、「2店回るときもあり、日蔭でないと生鮮が痛む」の声も聞いた。夏日の厳しい地方では一部屋根のある駐車場も必要である。 

表―1 交通手段別の構成比%      (近藤調査)


手段

区分

全国66

地区平均

東京35

地区平均

長野11

地区平均

配達

5.6

4.6

9.5

徒歩

17.9

24.7

8.6

自転車

35.4

49.7

18.1

バイク

2.1

1.0

3.2

自動車

36.6

15.2

59.6

バス

1.3

2.8

0.5

電車

1.1

2.2

0.5

  問題は今後エコを考えると、駐輪場も広く、かつ停めやすくし自転車を奨励する雰囲気を作ることも大切、ガソリン代の高騰もあり、自転車客も増えるはず。 

2.各種の自動車要素の数値

 ここでは、①自家用車保有台数、②主婦の運転免許率、主婦のマイカー保有率の3点を紹介する。ついでに平均値も最下欄に示す。 

表―2 自家用車保有台数別の構成比% 

台数

全国66

地区平均

東京35

地区平均

長野15

地区平均

0台

9.4

15.9

5.2

1台

50.5

71.4

19.7

2台

26.4

10.1

42.9

3台

8.8

2.1

19.8

4台

3.5

0.4

8.2

5台上

1.4

0.1

4.2

平均台数

1.51

1.01

2.19

表―3 主婦の運転免許取得率%

有無

全国66

地区平均

東京35

地区平均

長野11

地区平均

有り

54.5

41.7

69.4

無し

45.5

58.3

30.6

表-4 主婦のマイカー保有率%


有無

全国66

地区平均

東京35

地区平均

長野11

地区平均

有り

34.6

11.4

59.7

共同利用

13.0

19.2

4.2

無し

52.4

69.4

36.1

  表―1、表―4からすると、食品+雑貨の買い物のばあい、ほぼ買い物に車を使う率は、マイカーの保有率に比しやや多い程度である。やはり自身の車でないと日常的に車を使わないと見られる。 

長野など兼業農家も多い地区では主婦平均60%ほどまでマイカーを持ち、農家などは敷地も広く3~4台の駐車場が見られる。それでも70代過ぎの高齢層は結構免許を持たない主婦も多く、「買い物を含む家計の主導権が、昔と違い若奥さんに移っている」の感を深くする。 

逆に、東京など市街地では、自転車+徒歩で75%になり(車は1世帯1台平均で、ご主人が主に使う)、高齢主婦といえども家計をがっちり握り、優雅な年金生活を送っている。大都市と近郊部では、高齢者をターゲットとするマーチャンダイジングにもっと目覚めるべきだ。高齢者向けのプレゼンのPOPをほとんど見たことがない。 


3.交通手段別の移動距離(別項にも掲載)
 

 食品を買うため主婦は徒歩なら、自転車なら、車なら・・・どのくらい移動してくれるのだろうか?
   これはスーパーにとっても、食品専門店にとっても、チラシ配布エリアや、駐輪・駐車台数の適正配置上、重要なことである。だが意外にもはっきりした資料がない。下記のまとめは、当方が訪問調査で得た買物先、購入先別の購入シェア(頻度と客単価を想定し全戸計算)を前提に計算したものである。 

    地図に訪問家庭を点で落とし込み、該当スーパーに向けて、シェアに応じた長さの→を記入してあるので、交通手段別(これは原票に記入)の距離や購入シェアを、いつでも整理可能なのだ。距離は迂回でなく、あくまで直線距離だ。迂回距離はとうてい測れないし、他の地域に適応しにくい。この点では直線距離のほうが、他地区に適用しやすい。 

(1)徒歩(96事例) 平均移動距離0.54km 

 表のとおり、普通は「徒歩商圏750m」と言われてきたが、実態も750mまでに79%まで集中している。0.75kmを越えると急速に該当者が減る傾向にある。だが1.5kmまで来ているが、回帰分析から、限界距離は1.22kmという解も出てくる。なお結構、健康がてら、散歩がてらに長距離を徒歩で行く人も増えている。 

 家庭内のシェアにおいては、0~0.25kmは50.8%にもなる。0.25~0.75kmでも39~34%ほどを維持し、自転車や車客より高い。よく「徒歩客は購入額では最大の良い客」と言われるが、固定客になりやすく、客単価は低くても(持てる限度ある)、購入頻度が高くなり、毎日型の来店も多く、当然の評価である。 

表-5 距離別・交通手段別の利用度と購入シェア

距離区分


距離別利用者率%


家庭内平均購入シェア%


km


徒歩


自転車


自働車


徒歩


自転車


自働車


~0.25


16.7


4.5


 


50.8


30.8


 


~0.50


30.2


26.3


11.5


38.6


31.2


35.3


~0.75


32.3


30.1


20.7


34.2


26.4


23.2


~1.00


12.5


21.8


17.2


27.6


22.7


26.5


~1.25


6.2


9.8


6.9


19.0


16.7


24.0


~1.50


2.1


3.8


12.6


4.1


19.7


17.9


~1.75


 


3.0


9.2


 


5.1


32.7


~2.00


 


0.7


14.9


 


18.6


30.8


~3.00


 


 


2.3


 


 


9.6


~4.00


 


 


3.5


 


 


4.4


~5.00


 


 


1.2


 


 


5.0


(2)自転車(133事例) 平均移動距離0.71km

 平均距離からすれば、徒歩との差は200m足らずである。「楽に早く近隣を回れる」という便利さもあって、かなり近隣でも自転車は利用される。利用者例も徒歩より多い。 

 徒歩に押され0~0.25kmは、利用者が極めて少ない。0.25~1.00kmの利用者が78%と圧倒的に多い。1.0kmを越えると急減するが、限界距離は回帰分析では1.56kmとなるも、実際には2.0kmの例もある。 

 購入シェアにおいては、荷台に乗せる量に限界があり、頻度を考えたばあい車より家庭内シェアは低くなっている。 

(3)自働車(87事例) 平均移動距離1.38km

 平均距離からすれば、自転車の倍近くになっている。車には限界距離がないとも言えるが(たとえば、農産物直売所は狭くて5km、15~25kmもあれば、観光地型は50~200kmに及ぶ)、日常の買物では今回のように約5kmになる。スーパーの一般的な商圏半径は、モータリゼーションの進んだ長野・群馬当たりでも2.5kmほどが普通。5kmも走れば、一般的には隣の商勢圏にまで出向くことが可能な距離である。
 

表のように、0~0.5kmの利用者は皆無であり、0.5~2kmぐらいまでに分散している。2kmを超えると急激に減る。これは先記のとおり、食品中心の商勢圏はほぼ半径1.5~2.5km単位に分割されていることとも関係する。

しかし、0.25~2.00kmの間、購入シェアは安定しており、「距離に関係なく、自己が魅力とする店に行く」傾向が強い。自働車にとっては1kmも2kmも50歩、100歩であるためだろう。また運搬重量にも耐えるからだ。 

車の積載量が多いことと合わせ、やや離れていても楽にマメに通うこともでき、購入シェアは自転車よりやや高めになる。ただし2kmを超えると間に合わせ買いのためか、急激に購入シェアは低下している。

・・・以上が、交通手段別の購入動向だが、①0~0.25kmは徒歩中心、②0.25~1.00kmは徒歩・自転車・自働車の選択圏、③1.00~2.00kmは自働車中心の自転車の選択圏、④2.00km超えは完全自働車圏と見てよい。

 高齢化が進めば、自働車→自転車→徒歩への流れも加速、配達、御用聞きといった必要性も増してくる。次なる対応も必要になる。

4.週の買い物回数は

 車による買い物はまとめ買が可能になり、徒歩・自転車ではコツコツ買いになる。では週の買い物回数はどうなるか?

表-6 週の買い物回数

週回数

全国66

地区平均

東京35

地区平均

長野11

地区平均

0.5-

1.5

0.2

3.9

1.5-2

7.1

3.9

14.3

2.5-3

15.0

12.5

22.3

3.5-4

22.5

22.5

23.6

4.5-5

15.0

16.6

11.0

5.5-6

7.5

7.6

7.1

6.5-7

31.4

36.7

17.8

平均回数

4.66

5.00

3.92

 結構、毎日に近い週6.5~7回が全国的にはトップで、ついで1日置き程度の週3.5~4回が2位となる。日本ほど「鮮度志向」の強い国はなく、今もって毎日派の多さ(約31%)を支えている。しかしモータリゼーションが進み、商圏半径も2.5kmと広い長野では毎日派は18%ほどまで低下する。農家や家庭菜園を持つ家も増え、野菜が自家調達できる面もある。 

  今後は高齢層も考え、果物のブドウとかカット・スイカをプラスチックの容器に入れ小口に販売したり、サンマやアジの1尾もの、切り身の1切れものを強化する。また野菜・果物や鮮魚等のアイテムを変えながら訴求する・・・これらの努力が来店頻度を高め、同時に購買力全体のアップにつながるはず。 

 鮮度については、保存法が発達しており、どうしても来店しにくい人には、各商品別の適正な保存法のPOPをつけ、ときに簡易パンフを配ることも必要ではないか。現在のスーパーは省力に走り過ぎ、プレゼンを伴うPOPがほとんどない。これまた反省すべきことだ。 

 


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2014年8月31日日曜日

日本一の農業経営-600ha集積の株・西部開発農産に学ぶ!

1.小学時代からアルバイトで農業維持

 一般社団法人・まちむら交流きこうの主催で、8月25日に岩手県北上市後藤野の株・西部開発農産・代表取締役会長の照井耕一氏の講演会が行われた。農地集約面積は600haを超え、延べ作付面積は760haに及ぶ。当方の知る限り、日本一の農地集積であり、アメリカの1農家の平均規模170haの3.5倍である。
 


 写真はレジュメより 照井 耕一会長

 すでにNHKのクローズアップ現代でも紹介され、ベトナムの稲作指導にも乗り出し、身を粉にして従業員家族、地域住民、そして後進国の農業者の幸せを追求する素晴らしい方である。「人は1人で生きられるものではない。周囲の人、地域の人に育てられたので、社会に恩返しをしなければならない」というのが信念である。 

「西部開発農産」の名から、外部参入者のイメージを抱く方もいるだろうが、まったく異なり、地元の農業高校を卒業すると同時に、実家の農業に就農し苦労して今日を築いた根っからの農業者である。
 

 父親は昭和22年にこの地に入植・・・中山間地の不毛とされる土地。しかも父親は8才のときに亡くなる。ヒエ、アワ、押し麦などで空腹をしのぎ、小学校5~6年ごろには田植のアルバイト。中学の3年間は篤農家でアルバイト。高校進学のあきらめねばならない状況だったが、篤農家に頼んでさらに3年稼がせてもらい、県立北上農業高校を卒業した。その後、酪農に励み、23才で2才年上の奥さんと結婚、3人の子供さんを得た。 

 昭和46年ごろには、酪農を22頭まで拡大、開田も進め田3.2haで稲作部門を始めた。昭和53年には転作小麦20haの作業受託開始し、大規模小麦生産体制の確立を図った。昭和54年には酪農をやめ、肉用牛に変更。昭和61年に現在の会社を設立し、社長に就任した。その後、耕作放棄地や「借りて欲しい」の要望があれば、かならず相手の希望に沿い借地を順次増やし、600haという大規模農業を達成した。 

2.家族所得率に匹敵する経常利益率

まず現在の経営の果実から見ると・・・表―1、表―2の通りである。
表―1 経営規模の推移 単位:ha 頭数

部門

H22年

H23年

H24年

水稲

151.5

167.0

185.2

大豆

242.6

216.6

257.6

小麦

103.8

132.2

138.6

そば

98.9

130.0

119.5

キャベツ

   20

   21

   22

和牛肥育

120

140

190

表―2 経営成長の推移 単位:千円

区分

H22年

H23年

H24年

売上高

345,181

384,912

567,365

経常利益

128,015

46,819

182,406

H24年の延べ作付面積は722.9ha。ここ丸3年だけ見ても616.8haを1.17倍にし、肉用牛も120頭を190頭へと1.58倍に伸ばした。H24年の売上高は5億6,700万円、経常利益(家族労力は別途経費に算入のはず)は1億8,200万円。丸2年で売上高1.64倍、経常利益1.42倍と急速に伸ばしている・・・作付面積の伸びを上回り、それだけ粗放になるのでなく、利益を高める経営になっていることに注目すべきだ。経常利益率(所得ではない)が、H24年は32.1%で、一般的な家族所得率並みである。照井会長は、「平均年1億円の経常利益を目標にしている」とのことで、22年と24年は目標を大幅に上回る。

 東北新幹線の車窓から見ると、冬場の田はまったく利用されていない。当方は「これでは稲作の規模拡大をしても冬場は失業状態。大規模化―法人化をしようにも常時雇用は不可能」と感じ、「多角化し冬場の雇用を可能にすべし」と。かねてから思ってきた。 

照井会長は酪農(年間雇用)から入り、稲作、麦作、大豆作、野菜作、味噌や麺類の加工、作業受託と多角化してきた。しかも、途中から多労の酪農をやめ、労力面や耕畜連携面で多角化がしやすい肉牛に転換している。一方で稲作の直播、不耕起直播、小麦の立毛間播種等次々と採用し省力化も推進、これらの戦略が600haの集積を可能にしてきたと言える。 

広い耕地といっても、農業者の「貸したい」という希望をかならずかなえてきたので10a、20aの耕地もある。耕地が分散すれば作業能率が低下するが、全体の耕地を6ブロックに分け、Aは稲作、Bは小麦、Cは大豆、Dは野菜といったように、ブロックごとに作物部門を集め、作業の能率化の一助としてきた。 

耕畜連携も周辺農家に厩肥だけでなく飼料米も提供、見返りの堆肥を二戸などから1,000トンを集め、化学肥料・農薬を抑える環境にもやさしく、省コストの農業も進めている。

2.人と環境にやさしい農業目指す

大規模集積-高収益を達成してきた原動力は何か。従業員とその家族への思いやり、地域社会への思いやり、さらには外国の同じ農業者(現在はベトナム)への思いやり・・・といった人間愛に満ちた経営理念である。早くに父親を亡くし、小・中・高校と長男として苦労して育ち、自然に身についた理念と言える。詳しくは「経営者の理念」や「理念の実践」の項を見てほしい。 

表―3 その全体像

区分

内容

組織体制

    

取締役会

       |

    代表取締役社長     経営会議

       

   ――――――――――

    |         |          |

管理部  生産部  営業部

 

経営概況

1.役員    (平成25年度時点)

代表取締役会長 照井耕一    68才

代表取締役社長 照井勝也(長男)44才

専務取締役   小原信正    55才

常務取締役   照井 渉(次男)42才

2.経営規模

耕地758.4ha、肉用牛176頭、繁殖牛

40頭

3.資本金  2,697万円

4.売上高  5.6億円

5.従業員 正社員35名、パート60名

経営者

理念

 

地域を守り・人を育て・地域農業を担う

1.人を育てること

2.食農教育の重要性

3.農地を守ること

 100人の家族を守ること

理念の

実践

1.食農教育

食料の大切さの食育

農業(職業)教育   農業が好きだ

農業体験学習の受入れ

2.農地を守り・食料生産

 農地 →農業生産の基礎

 遊休農地、耕作放棄地→もったいない

 高齢化による未利用地の拡大

   →西部開発農産が農地の受手に

特色

1.借地によるスケールメリットの追求

2.多角化による企業的経営

3.5年7毛作の大規模輪作体系の確立

4.雇用創出と人材育成

5.耕畜連携と自然循環・環境保全農業

多角化

 

 

 

1.生産部門

穀類:水稲、小麦、大豆、そば

野菜:キャベツ、アスパラ(露地)

 青ネギ、ベビーリーフ(ハウス)

畜産:肉用牛繁殖・肥育一貫経営

2.受託部門  除雪、種子調整

3.加工部門  味噌、めん類

技術革新

大規模経営を目指す→

 作業の効率化・低コスト生産→

  生産技術の革新に取り組む

    水稲直販栽培

    小麦立毛間播種栽培

    小麦・大豆・そばの不耕起播種

雇用創出

通年雇用体制の確立

 水稲+畑作+肉用牛 野菜の導入

 農産加工、作業受託

人材育成

1.農は人なり

社長は社員の手本

人は育てるものにあらず 育つもの

若手が「育つ」環境づくり 資格取得

2.考えさせる  達成感を味わう

計画の立案→やりとげる

意欲  失敗  責任

3.農業  生物に働きかけ天候と勝負

  人を育てることについては、とりわけ熱心である。「人は育てるものでなく、育つもの」の考えに立つ。作業グループに分け部門を担当させているが、「仮に間違ったことをしていても、その場で注意するのでなく、結果が出てから考え、気づかせ、自ら改善策を見出す」ように仕向け、理解度を高める。「誰でも、親から立派な頭をもらっている。それを利用しないのは親不孝だ」「聞く耳、見る目を持つことが大切」と言う。頭脳の吸収力が活発なのは30才までで、「30才までの教育が大切」と指摘する。 

また「従業者は社長の姿を見て育つ」と、自ら手本になるよう率先して働く。いまも3~4日に1度は圃場を見て回り、作物が何を言わんとしているか観察し、次に打つ手を教えている。 

正社員は現在40人、パート60人だが、正社員には冬・夏の年2回賞与を出す(計4ケ月?か)。社長や部課長は部下の仕事ぶり、生活態度等を50点満点で評価し賞与に反映。現金で賞与を渡す際、必ずちょっとしたコメントを述べ激励する。いずれにしても、自社の赤いつなぎのユニホームを誇りに思い、チームワークの取れた集団のようだ。班ごとに、代掻きのおわるころ飲み会をひらき、コミュニケーションをよくする努力もしている。 

 地域の消費者や子供さんにも、食べ物がいかに大切かを理解してもらうと、食農教育のため無理なときでも体験学習を受け入れている。中学生がくればキャベツの草取り、青ネギの皮むきなどを体験してもらう。 

「食べ物を大切にしないようでは、危急の際に国は亡ぶ。国は後継者不足が起きないよう、ここ10年以上は年3兆円くらいの農業予算を維持すべきだった。ところがいまは2.3兆円に縮小」「3年ごとにコロコロと政策が変わるので困る」と農政に対する批判もためらわない。 

3.全体及び部門別の問題と対応

 大規模経営では、どうしても播種だとか収穫の期間が長くなり、適期作業がおろそかになる。省力体系を確立し、これに見合う機械の導入も必要だと強調する。 

水稲の直播は今年240haである。うち1haが不耕起直播を始めているが、3年以内に成功させそうだ。稲株が残っていると正確な直播ができないが、ヨーロッパの直播機も導入し、うまく播けるようになった。いずれにしても現在の田植機は作業能率が低い。むかしは軽トラックで播いたが、いまは無人ヘリコプターに担当2人がつき早く播けるようになっている。 

小麦・大豆・そばは、不耕起栽培が100%である。収量も上がった。大豆は約260haで、もともとの主力商品だが雑草との戦い。初期の土壌消毒を十分におこなえば100~120%の力を出すという。また6葉期に頭を刈ると枝が増え多収になる。収穫は16時にやめろというマニュアルもあるが、18~19時までやって、汚れたらクリーニングすれば問題はないそうだ。小麦は梅雨時が収穫のため、短期収穫が必須だが、140haほどを5日で終わらせるため夜の10~11時まで刈ることもする。いずれにしても、少ない機械を効率的に動かすことが、コストダウンの道とのこと。 

野菜は正直、不安定で3年に一度儲かればよい。キャベツは一昨年20haほどだったが、今年はゼロ。天候に左右され群馬に負ける。このためアスパラガス、青ネギ、ベビーリーフを増やしてきた。 

荷用牛は黒毛和種だが、TPPでたとえ関税の引き下げなどがあっても黒毛和種は残れると見ている。このため繁殖までして、子の雌牛を肥育する一貫経営である。それだけ経営も安定し、コストダウンの余地もあるからだろう。 

加工はどうか。味噌のばあい12~2月の冬場の仕事。独特の「ひまわり味噌」は売れる分だけ作るが、オレイン酸が多く、1年間食続けるとコレステロールが無くなるとのこと。めん類は一部原料も仕入、加工してうることまでしている。 

請負作業は、一つが12月1日から3月31日までの高速道路の除雪作業(これは当方が訪ねた北海道の稲作農家2軒もしていた)。もう一つがやはり冬場の大豆の選別作業で、1日30~40人で4時間ほど行っている。 

4.ベトナムの1農家所得月1万円をアップ

 照井会長は、「ブラジルで大豆栽培を」の話で、ブラジルの農業も見た。また4年前に9人で中国の農業も視察した。中国のばあい工場の排水で用水の水が鉛色。稲作は多収できるが安全性の面でダメ。 

 ベトナムに3年前に行き、親日感が強いことと農家所得が月1万円と低いことを知った。インディカ米だが、収穫したモミを業者にそのまま売るため、1kgがわずか25円。だが、米の生産量は日本の3倍ほどの2,500万トンで世界3位。輸出は700万トンでインドに次ぎ世界2位。一方、人口は3年間で9,000万人が9,500万人に増えたものの、工業の発展のなかで農家人口率は70%が50%に急減している。省力稲作が求められている。 

 このため、平成25年にベトナム研修生の受け入れを開始するとともに、ジャポニカ米の試験栽培をベトナム北部のバクニン省とハイズオン省、南部のアンザン省とソクチャン省で開始。H26年に入りハノイ近郊のフンエイ省でも開始。
 
 写真 ベトナムでの稲作指導 (レジュメより) 

北部は2期作で米の品質はやや良く。稲作の現状は耕耘機で代掻き→苗床で育苗→手で田植→手刈りの収穫→脱穀機→天日干しで乾燥。南部は3期作だが品質はあまり良くない。作業体系はトラックターで代掻き→手または直播ロール器で播種→コンバインで収穫→船でモミ輸送→平干しで乾燥。 

以上の体系をどう省力化・近代化していくかを指導するとともに、資金がないため倉庫も完備していないので、これらについての投資も予定。日本の商社の協力も得て、輸出に見合った法人を近々ハノイに設立する。国を越え、照井会長の「人にやさしい農業」が結実することを祈りたい。