2012年5月16日水曜日

農業経営の目標設定は売上高?経常利益?所得?

    農業者の皆さん!5年後、10年後の経営改善計画を立案する場合、①粗収益、②売上高、③営業利益、④経常利益、⑤家族労働報酬・・・どれを選らんで数値目標の基礎とするか。これには家族中心の経営、従業員も多数いる経営・・・といった体質によっても違ってくるかもしれない。
 ところで、①~⑤について個々の内容を吟味したい。
1.粗収益=生産品の売上+副産物の売上+自家消費+生産品に関係する補助金・交付金
2.売上高=生産品の売上+副産物売上
3.営業利益=粗収益-生産・販売経費
4.経常利益=営業利益+営業外収入(利子や生産品と関係ない保険等の収入)ー営業外支出
=税引き前利益
5.家族労働報酬=専従者報酬(法人では家族役員報酬等)+経営主報酬 
  
  ざっとこんなことになる。1や2は、あくまで入ってくる金で、利益とか家族労働報酬の高さとは関係ない。規模拡大すれば、普通なら売上高や粗収益は上がる。しかし、規模拡大のみ急ぎ、借金まみれ、赤字まみれになっている経営は少なくない。酪農経営で110頭まで増やしたが、草地が劣悪のため、餌不足で年間1頭の乳の量が7,500kg(標準9,000kg)で、8,000万円以上の借金のため、返済できず競売にかかった例も見てきた。

 
 3や4の営業利益や経常利益は目標値になるか?家族労働報酬を高くすれば、シーソーゲームのように、一般に営業利益や経常利益は減る。実際、節税対策のため、家族個々の報酬を増やし、営業利益や経常利益を抑える例は多い。5の場合の家族労働報酬もまた、3や4とのシーソーゲームで低くなったり高くなったりする。

  経営の5ケ年、10ケ年の中・長期計画を立てる場合、それが期待や希望に満ち、楽しいものでなければ、「おっくう」なものになる。「10年後には子供も2人になり、このくらいの所得が欲しい。
借金が楽に返せ、投資も充分にできるだけの余裕を確保したい」・・・こんな前提で、経営計画が立てられることがベターである。

  とするならば、1~5の単独型経営計画は総てバツである。そして家族所得や経常利益を組みこんだ4+5型のものであるべきだ。個人経営の場合、経常利益は差引経営者所得に組みこまれている。これに専従者所得(給与)を加えれば、法人経営の家族役員報酬+経常利益に類似してくる。法人と個人の別なく収益力の比較も可能になる。また(4+5の額)÷(粗収益対比の4+5の百分率)×100=目標粗利益額となり、収入全体の目標も簡単に計算できる。

 2、3、4,5年後の粗収益の目標といっても、その前提として、目標労働報酬、目標経常利益というものが計算に組み込まれていなければ、将来の発展に結びつかない。適正な労働報酬は家庭のうるおいを保証し、経常利益は返済余地や投資の余地を広げ、着実な発展を保証してくれる。

 できれば、家族労働報酬だけでなく、雇用者の労働報酬も含めて目標に折り込むのが正解である。さもないと、人的面で行きずまる・・・新規の就農者不足も報酬の低さに起因しているからだ。

  今回、以上の点に触れたのも、個人経営には経営主所得を、法人経営には営業利益を採用し、
5ケ年の実績評価をする・・・といった同質性のない要素で評価する場面に出会ったからである。
また我々コンサルタント仲間においても、農業者に個人、法人の決算書例を示し、丁寧に数字の意味を説明したうえで、経営計画立案を指導していただく必要がある・・・と感じるからだ。

  経営計画を立案する場合、年々の変化は売上高=栽培ないし飼育規模×出荷量×単価になる。そして単価はこだわりの程度(付加価値)や販売チャネルで異なるだけではなく、①対象とのる生産物の価格推移・・・回帰分析による推定、②価格変動が激しい場合はそのリスクを折り込む必要がある。また経費面では①家族及び雇用者の所得=労働報酬の向上を見る、②主たる資材の値上りまで組む・・・といった配慮をして、初めて本物の経営計画になる。ただ過去の延長であってはいけない。

 
 回帰分析(=最小ニ乗法)による傾向値の計算は、難しいものではない。関数を使うのでなく、エクセル表で視覚でとらえながら計算する方法もある。必要な方には無料で計算方法を伝授する。
  ところで、部門別の所得率(法人であれば家族労働報酬+経常利益)のメドだが、やや古いH19
年の統計では、償却費を含んだ所得率レベルは、稲作全国38.9%、柑橘34.0%、リンゴ37.4%、露地野菜全国29.6%、施設野菜35.2%、施設花き30.3%、茶30.2%、キノコ25.6%、酪農全国23.4%、肉牛全国10.4%、養豚11.2%、採卵鶏9.3%、ブロイラー9.4%である。


 


2012年5月15日火曜日

大型6次産業化の優等生-モクモク手づくりファーム!

 やや前になるが、4月26日にテレビ東京で放送された村上龍氏進行の「かんぶりあ宮殿」=三重県伊賀市の「モクモク手作りファーム」の訪問記である。見られた方も多いと思う。全国直売所研究会から事前連絡を受け、当方も一生懸命メモを取った1人である。見なかった方からのリクエストもあり、一部間違いもあるかもしれないが、下記に紹介してみる・・・

「2人のサムライ修(オサム)の農業革命」といったサブタイトルだった。社長が木村修さん(60才)、専務が吉田修さん(61才)で、2人は同じ農協で働く職員だった。木村さんが販売、吉田さんは獣医で営農指導? ともあれ、夫婦よりも長く30年間も一緒に持ち味を発揮してきた。性格も異なり木村さんは楽天派、吉田さんは慎重派で、モクモクを立ち上げるとき、吉田さんは子供3人、家も新築したばかりで慎重にならざるを得なかったようだ。

今日、モクモクは年商48億円、年間来場者50万人、視察受入れ320件(5,000人)、ネイチャークラブ会員4万2千世帯・・・HPの公表数字で、実際に放映の際にも紹介された。

1.価格決定権を持ちたい

農協当時、物を売るためスーパーを訪ねると安い輸入品がズラリと並び、「安くしろ・安くしろ」の要求ばかり。ところが、デパート等のギフトコーナーに行くと、ハムなどの贈答品は1万円で売られている。生産者手取り価格は、この1/10ほどと低い。

「メーカーや小売に価額決定権を握られ、農業者は下請けにすぎない。これではいけない。価格決定権を持たねば」と2人とも退職し、呼びかけ、仲間16人で1人200万円ずつ出資し、農事組合法人を設立、24年前に現在の「手づくり体験A館」の場所に工房を立ち上げ直売を始めた。

「あのバカ者たちに、何ができる」と当初はあざ笑われた。実際、山のなかの立地のため、お客が来てくれない。赤字続き。「ただ普通のものを作っていては評判にならない。味と品質にこだわりが必要」と反省。ハムも伝統加工法の自然熟成にし、ウインナーの皮も高騰しているものの天然の羊腸を使った。売れるようになり、地元養豚も1万頭出荷までに増え豊かになった。

次々と野菜の直売所、パン工房と拡大してきた。いまではレストラン、遊園地、宿泊施設、体験農場・・・ほか約26ほどの施設があり、その規模は東京ドームの3倍と云う。直売所「野菜塾」は100軒の農家が出荷しているが、あまり安くせず100円以上で売るのが原則。パン工房では国産の小麦を使用。酵母入り生ビールも地元産の大麦を使用。

2.土着性のあるブランド作り

 商品作りのコンセプトは生活圏の人に愛着を持ってもらえるための「土着性の強いブランド」である。「国際競争が増すなか、生き残るには地元顧客に愛されればならない」ということ。

 成功の秘訣は、一つに話題性・・・「バレンタインデーに米こめウィンナーを」と新製品を提案したり、その後も渦巻き状の「クルクルウインナー(全長160cm)」「スープが飛び出す生ウインナー」など、毎年新製品を出し続けてきた。

 地域と一体になるには、体験してもらう必要がある。イチゴ狩り体験教室をスタートさせ、子供さんなどに「イチゴは野菜ですよ。木になるのが果物」と農育の場面も放映された。「食べ放題はいけません。沢山採って沢山たべにゃーあかんということになると、採り過ぎて捨てることがある。もったいない」との弁もあった。

手作りウインナーの体験教室は1年先まで予約で一杯という。「同じ腸でも羊を使ったのがウインナー、豚がフランクフルト、牛がボロニアン」とここでも知ってもらう努力が盛んにされている。レンコンの収穫体験もあり、これらの魅力が熱烈フアン42,000人を生み出した。「消費者は仲間というスタンスが大切だ」と指摘していた。

また「大切なのは伝えること。知ってもらうこと」で、体験教室だけでなく、通信販売では、カタログに商品作りの失敗事例も沢山のせ、注目度を高めてい。現在、通販は全販売髙の30%と高い。

3.視察者の地元を支援

 立派なのは、視察に来た農業者の現地に出向き、奉仕的に農業や6次化の支援をしていること。沖縄の徳之島では2人にコーヒー栽培を奨励し、自家焙煎し、地元にコーヒーショップも作って売るよう指導している。

「おせっかいが好きなんですよ」と2人の修さんは笑い合う。各地の農業の見直しを手伝い、自らの手で地域活性化できるよう「おせっかい」を焼くとは、実に立派である。

 この後出て来たのが、モクモクへの新規就職者の紹介だった。中央や早稲田大学の法学部卒、東大や名古屋大学農学部卒、中央大学経済学部卒・・・とそうそうたる学歴が披露された。

 やはり、モクモクは生産―加工-販売の6次産業を多要素で達成、待遇も良く、楽しく、明るい未来型の農業経営をすでに実現しているからだろう。昔、モクモクの高い給与の紹介記事を見たことがある。

「各県にモクモクのような大型のモデルが1つ?できれば、ずいぶん地域活性化が進むことになるだろう」との村上龍さんの言葉が印象的だった。しかし人材が必要である。モクモクが育てた人材が、全国的に散ればこれも夢でない。