2014年12月27日土曜日

「激動の時代と日本農業の活路」(鈴木俊彦著)-農業関係者必読!

 表題の本「激動の時代と日本農業の活路」は東京農大出版会のもので本体価格1,800円+税(計1,944円)。著者の鈴木俊彦氏は当方も6年勤めた「家の光」編集部の2年先輩だ。現在はフリーの農業ジャーナリストだが、当方の10倍もの本を読み、10倍もの取材経験もあり、広い人脈も築いてきた。 

    今回著作は、これらの総決算ともいうべきもので、実に細かいデーター、多数の見解を紹介しつつ、鋭利に農業や農協の現状に切り込み、妥当性のある発展策をズバリと提示している。「玉虫色」の結論ではないのが立派である。かつ共鳴できる改善策・発展策が多い。 

第1部     日本農業・緊迫の論点

第2部     協同組合運動の軌跡と展望

第3部     巡り合った人々の思い出と事件

第4部     世を去りし人を悼む     計269ページ 

 農協マンだけでなく、農業関連企業に携わる企業マン、スーパーやコンビニエンスといった食品小売業の幹部、そして農業経営コンサルタントも必読の書である。忙しいばあい特に第1部(114ページ分)だけでも読む価値がある。何故かと言えば、第1部では病める日本農業の姿・・・農業人口の減少、高齢化、担い手不足、耕作放棄地の拡大の4要素について、数字的根拠も示し正確に捉え、その対応策に言及しているからだ。 

      「社団法人・家の光協会」はJA系列の出版社で、鈴木氏も農協マンの一翼を担ってきたが、農協流の考えに組することなく、外部企業の農業参入、TPP、農協解体論等についても、実に客観的に述べている。  

 氏は「日本農業のキーワードは<まだら模様>」と見、家族農業と会社農業の並存、農業資本と商系他の外部資本の並存を現実の姿とし肯定し、「まだら模様」と表現している。 

    例えば外部企業参入も、「耕作放棄地が全農地453万ヘクタールの10%近くの40万ヘクタールに及び、外部参入が起こる隙間を作った」としたうえで、セブン&アイ、ローソン、イオン、東急ストア、西友、生協ひろしま、ファーミリーマート、ワタミ、サイゼリア、モンテローザ、大戸屋、ほか計20ほどの企業例をあげ、さらに7商社、10社以上の製造メーカーの事例を細かに紹介している。 

     「外部企業の新規農業参入は、明らかに侵略であり、蚕食だが、実際に農作業を担当するのは、多くの場合JAの正組合員。新たに雇用の場を得たことになる」。また「市場出荷による価格の乱高下に悩まされる農家にとって、やや低賃金にになっても(注:契約取引による定価格)小さな安定経営につながる」と、プラス面も正当に評価。
 

 さらに企業参入に対抗するには、農業者は農業法人化を図り、マネージメント能力を付加すべきだ・・・とするとともに、JAもまたJA出資型法人の集落営農を伸ばし、大規模化やマネージメント能力向上のメリットを発揮すべきだ・・・と明確な提案をしている。 

     JA全中の解体論については、最終的にはすでに1県1農協に統合した県もあり(奈良、香川、佐賀、大分、沖縄はすでに完了。島根は2015年3月予定)、これを全国的に進め、内部的合理化を図り、商社との競争力をつけることを提案。伊藤忠商事系のファミリーマートによるAコープ店舗のてこ入れも紹介し、商社との連携も1つの発展策と捉えている。 

 TPPについては、「国産米は安全・安心の視点から支持され、関税が引き下げられても強い。問題は酪農ほかの畜産だ。オーストラリア、カナダ、アメリカ等との規模格差は大きく、TPPで関税引き下げられたばあい打撃を受ける。この補てん策が不可欠。果物はTPPで関税が下がれば輸出を逆に伸ばせ有利」とし、「農民全体がTPP反対とは言えない。特にコメに依存しているJAは、反対の意味が薄く、農家をTPP反対で一色でまとめるのは困難になっている」と指摘。 

 全体とすれば、正か反かの対立軸でしかとらえなかった過去の学者先生と違い、広い知識と学生時代に経験した理論対立の図式から、「第3の現代に役立つ方向性」を打ち出した著として高く評価できる。後半は戦後の農業史を、豊富な人脈とからみで説明してくれ、これまた非常に読みでがある。

 希望者は、「一般社団法人東京農業大学出版会」 03-5477-2666 

 

2014年12月13日土曜日

埼玉県狭山市の「あぐれっしゅげんき村」は飲食スペースも広い!

 開店間なしの農産物直売所を訪ねるのは久しぶりである。埼玉県狭山市堀兼2085に、11月21日にオープンしたのがJAいるま野の「あぐれっしゅげんき村」である。直売所本体の売り場面積は約166.3坪。レジ5台。このほかレストランのスペースが30坪。建物全体では約313坪。営業時間は10~3月が9:30~17:30、4~9月が9:30~18:30、休日は第3水曜である。 



1.個性の発揮―地元特産品に広いスペース 

   新しく開通した幹線道路沿いにある。付近に人家はほとんどないが、直売所の広域集客性を考えると、車で来易く妥当な立地選定だと思う。ただし、反対車線を下ってきたばあい、交差点で右折し、約300mは迂回するのが欠点。駐車場は176台分と広い。暖かい時期ならくつろげるよう、屋外の屋根下にテーブル5、ベンチ2があり、最大26人ほど座れる。広域集客へ配慮と言えそうだ。冬場はサンルーフ状に使えればベターである。 

 店内に入ると、地元特産のサトイモ類、サツマイモ(川越と隣接)、葉物類(トンネル栽培多数)のボリュームに圧倒される。サトイモに八つ頭を合わせ6尺平台4本分。ホウレンソウ、コマツナ、チンゲンサイ、ターサイ、ミズナ等の葉物も6尺平台4本、サツマイモは6尺平台2本分ほど。狭山茶の茶所だが、お茶コーナーも12尺×7段?ほどだが、地元茶園13社ほどの品揃えをしている。「地元特産品」のアッピール面は、まず十分だ。 
<写真ー1>見通し良く、壁面の写真パネルも映える
 付加価値販売の面では、ベーカリーと惣菜販売が目立つ。ともにバックヤードを壁の仕切り、ガラスの仕切りのすぐ奥に設け、暖かい出来立てを提供できる。パンコーナーはガラス戸のついた8尺4段ほどの台?だが、120~160円ほどの各種菓子パン10種以上。298円のフランスデニシュ、オレンジロールなど販売。 

   惣菜は平オープンケース8尺、平台4尺に、背後の作業場で作った惣菜を並べ、半対面式で売っている。1パックキンピラ198円、ミズナのピリ辛煮198円、切り干し煮物120円、ポテトサラダ198円、ピクルス150円、鶏から揚げ198円、コロッケ1ケ100円、2ケ200円、地元開発サトイモ・コロッケ2ケ240円、大学芋1P200円などである。 

 ワンストップ(1ケ所で総て揃う)のため、鮮魚は多段オープンケース6尺で、1,200円と750円の刺身と塩干物を中心に22アイテムを販売・・・やや寂しい感じはする。肉類は多段オープン8尺で、牛・豚・鳥・加工が24アイテムで、魚と肉はテナントが販売。他に平冷凍ケース3尺で「彩の黒豚」の冷凍販売もしている。肉類はまずまずの充実ぶり。牛肉も買われていた。人が付き魚も人的な販促に努めているのが目を引く。
 

 各種日販品と言えるものは多段オープンケースで牛乳・色物・乳製品が6尺、豆腐・納豆も6尺、生・ゆで麺6尺、漬物・みそ等も6尺である。これらはいずれもケース内が満杯で、直売所としては最良の部類・・・そして全体としてもワンストップ面の配慮は良くできている。調味料ほかのドライ食品もJAコープブランドと、弓削田醤油など地元特産銘柄の比率を半々ほどにし、選択性を高めているので好感が持てる。

 一般に地場産品が少ない果物についても地方品も集め、平台6尺×6台を急傾斜の雛壇式に活用し、美しい陳列で充実している。 
<写真-3>特産の里芋はアイテム豊富の大量陳列


 <写真ー2>彩の国黒豚の冷凍パック販売
 
  
 
 1.

2014年12月7日日曜日

火山国の連携-日本・インドネシアでムラピ火山災害地のイチゴ栽培支援!


1.日本・インドネシアは共に火山国


    御嶽山の突然の噴火で死者・行方不明者63人が出た。そして、阿蘇山も噴火、遠い南の小笠原諸島の西之島でも日々噴石を続け島が拡大・・・日本は火山国だが、インドネシアも同様に火山国。首都ジャガルタのあるジャワ島の中部にあるムラピ火山(2,968m)が2010年の10~11月にかけ何回となく大爆発、火砕流を発生させ、死者322人、避難者総数38万人に及んだ。噴出物の総量は1.4億(御嶽山は50万トン)である。 歴史に記録された大噴火だけでも10回を数え、死者だけで1,000~3,000人を数える例も5回はある。

     インドネシアの活火山の数は130とされ、日本も110である。火山災害及びその対策の知識を共有し、助け合っていくことが大切である。ムラピ火山の場合、火砕流や火山灰のため真白に。多くの家畜が死に、トウモロコシ畑、水田は厚い火山灰に覆われ、農業は壊滅的な打撃を受けた。4年が経った今は、木々も生え緑を取り戻しているが、農業を再開するまでに至ってない。

 レッドゾーンと呼ばれる「立入禁止地区」では、火山が売りの観光をむりやり再開し、かろうじて貧しいその日暮らしをし、もの乞いをしている農家さんが一杯いるという。

 
犠牲になった家畜の白骨と津和野さん
  ここで紹介する津和野眞佐子さん(42才・埼玉在住)は、武蔵野音楽大学を卒業後にインドネシアに留学。卒業後も現地で「Yayasan Matahari Yogyakarta」 というボランティア組織も創り活動もしてきた。国内に戻ってからは入間市のFMチャピーのディスク・ジョキーも務めていた方だ。「留学時代、噴火で犠牲になった村で大変お世話になった。ムラピ火山の山麓は涼しく、有名な避暑地にもなっている。このため以前はイチゴ栽培もされていた。もう一度、日本で親しくなった福島県の放射能被害で営業できなくなったイチゴ農家の方を現地に招き、技術指導をしてもらい、農業活性化のお手伝いをしたい」という。さらに「このため、日本で新たな事業をして、支援資金をつくりたい」との夢を描いている。
噴火から1年後-バナナほか緑も回復したが、農業は遠し-右が津和野さん

2.イチゴ技術支援の基金募集!!


 津和野さんを紹介してくれたのは、本ブログで紹介しアクセスランキング2位の埼玉県農業大賞のベンチャー賞に輝いた入間市の有・桂ファームの栗原桂一氏だ。インドネシア在住の我が息子のためアドバイスをお願いしたのがきっかけで、津和野さんを紹介してくれたのである。大きな志に感銘を受けるとともに、「インドネシア・ムラピ火山被災地支援基金織」を皆さんに呼びかけ、ささやかながら資金集めに協力したいとの考えだ。(振込口座も作り、厳正に管理してもらえる人に依頼して本欄で収支を報告するつもりだが・・・この点の具体案はしばらく待ってほしい)
 
 本日のところは、まず現地の被害状況のごく一部を写真で見ていただくに留める。なお、日本のムラピ災害地区の支援はすでに始まっている。

              
火砕流で焼けただれたテレビなど
スズキのスクーターも見るも無残
  ➀地震計の多数設置(東京のチャレンジ)、②緊急時のボイス伝達網の確立(神戸の「FMわいわい」)などだが、地元の基盤産業の農業の活性化支援は進んでいない。津和野さんのイチゴ栽培指導・支援はこの起爆剤になり、日本・インドネシアの友好関係をさらに発展させることになる。ぜひ多くの友人にこの動き伝えていただきたい。イチゴは現地でも高額で売れる貴重品であり、地域活性化の効果を上げやすいのだ。


 


 


 


 









2014年12月1日月曜日

養鶏経営(小規模)の規模連続指標-売上高と経費は!所得3倍の例も!

 農水省では営農類型別に、経営収支の指標を毎年出している。養鶏の場合は1万羽未満(平均常時羽数5,861羽)、1万~3万羽(同21,719羽)、3万羽以上(同38,748羽)の3区分で収支・科目金額が整理されている。となると、例えば常時飼育羽数が13,993羽の時の収支はいくらかという計算が瞬時にはできない。 

 これを瞬時に行えるように、H24年度統計を前提に、最少二乗法という方法で傾向値の式を科目別に算出したのが下表である。黄色の分部に貴経営の常時飼育羽数を置き、これを「定数」として、定数にそれぞれaを掛け、+bとした解をy金額欄に算出すると、自動的に粗収益や経営費が出、家族所得も出る・・・といったワン・タッチ方式である。 

あくまで大規模養鶏ではなく3,000< >50,000羽クラスの小規模養鶏の指標と理解していただきたい。ただし、自経営の実態との乖離・・・特に卵価、飼料価格は修正し、より現実的な指標に修正する。そして、6列目に自家の決算書の数字を落とし込、平均=指標に比し、実態が良いか否かを検討する。 



常時飼育数X=

13,993


 

 

科目別金額y=

a X + b

科目区分



y金額

平均

誤差%

Ⅰ.粗収益

 

Ⅰ合計→

 

 

 鶏卵販売額

2.400

5,256.8

 

± 5.

 畜産収入

0.014

54.1

 

±30.

 他農業収入

0.013

740.5

 

±10.

 共済・補助他

0.267

-1260.4

 

±72.

 修正プラス分

0.077

0.00

 

 

Ⅱ.経営費

 

Ⅱ合計

 

 

 元畜代

0.261

-273.8

 

± 0.7

 飼料代

1.853

1066.8

 

± 6.5

 農薬・医療

0.048

-24.7

 

±17.5

 光熱・動力代

0.054

474.3

 

± 4.0

 雇用労賃

0.188

-499.1

 

±55.9

 農用自動車

0.009

229.8

 

± 2.5

 農機具

0.077

49.0

 

± 7.9

 農用建物

0.130

-214.6

 

± 0.2

 賃借料

0.013

17.7

 

±32.1

 共済等掛金

0.110

-294.5

 

± 5.3

  減価償却費 

0.105

482.8

 

±15.5

その他経費 

0.129

208.4

 

±17.8

修正マイナス分

-0.064

0.0

 

 

Ⅲ.家族所得

個人経営

Ⅰ-Ⅱ→

 

 

 家族労働費

 

 

 

 

 経常利益 

 

 

 

 

法人家族所得

法人経営


 

 

    黄色い箇所の13,993羽は24年統計の総平均羽数である。この時の粗収益、経費と傾向値の若干のズレを修正したのが、修正プラス分、マイナス分である。この修正で13,993羽の場合、統計数値と完全に一致している。 

(1)個別経営で、業者への卸販売、直売・・・と販売形態や商品のこだわりにより、販売卵価は異なる。この調査時点の平均卵価は1kg=173.1円である(実際は微々たる金額の鶏糞・廃鶏収入も含む)。皆さんが仮に直売などで平均250円、350円と高く売っていれば、鶏卵販売額のところを1.444倍、あるいは2.022倍に修正する必要がある。 

(2)飼料代の項目も、H24年の養鶏配合飼料代は全国平均1トン当たり75,189円なので、値上がり・値下がりしていれば、その倍率で修正が必要になる。 

(3)いずれにH24年度に比し、大きく値上がりしたり、値下がりしたものを修正すれば、H24以降の年の経営分析にも通用する。 

(4)黄色の囲みは、貴経営の常時飼育羽数=Xだ。各科目の傾向値Yはy=aX+bの
式で得られる。エクセルに下表と同じ行と列の表を作り、下記数値も記入する。そして、
黄色い部分の自家の羽数を{定数}とした定数掛け算の答えをy金額欄に打ち出すようにする。定数掛け算の仕方はパソコン集計に詳しい人に聞けば教えてくれる。 

 いずれにしても、経営の良否について一定の物差しを持つべきで、直売比率100%(ケーキ店や食品店への直卸含む)の優良事例の場合、同規模指標レベルに比し、粗収益2.8倍、所得で3倍という結果になる。