農家に行くと立派な池をよく見かける。端端に立派な巨石を配している場合が多い。この石を主婦の皆さんを取り囲む頼れるスーパーと見立てたばあい、池の中が第1次商圏で、回遊する鯉が消費者と言える。頼れるスーパーと言った場合、競合条件にもよりけりだが、150~300坪以上の食品スーパーやGMS(総合スーパー)ということになる。頼れるスーパーが近隣にあれば、これを除く、次の頼れる店を選択する。
内側にも多数の食品専門店や小型スーパー、商店街があったとしても、消費者は頻度が少ないなりに「頼れるスーパー」までは出向き、その先まではなかなか行かないものだ。行くばあいは第1商圏からの流出としてとらえれば済む。池の外側が第2次商圏だ。流出は池の鯉が新鮮な空気を求め、水面上に飛び上る状況だ。GMSであったり、大型ディスカウントストアだったり、時に電車で行くデパートだったりする。それが3kmとか4km離れていれば、日本型の小商圏では、流出と見るほうが妥当である。
当方のばあい、自身で設定した商圏を8方向で図り、平均商圏半径を算出してきたが、長野や群馬のようなモータリゼーションの社会でも、だいたい半径2.5kmだった。日本の商圏は単位面積当たりの人口密度が、アメリカの1/12.5ほどで(アメリカの国土約25倍、人口2倍)、距離的にアメリカの1/12.5になったとしても不思議でない。日本の主婦は買い物面で実に恵まれている。
2.商圏の形はほぼ7種
商圏は以上の前提に立つとするならば・・・①アメーバー状、②円形、➂半円形、➃多角形、➄四角形、➅台形、➆三角形などの形に分類できる。周囲の店を線で結ぶので多くは➃~➆となる。外縁を直線で結ぶ商圏であれば、内側の角度を360°で割り、商圏関与度が出しやすく便利だ。3角形は鉄道、幹線道路、河川等で3方向を分断されているようなケースだ。
➀アメーバ―状は、山に囲まれ道路沿いに集落が形成されているばあいだ。➁円形や➂半円形は四方や2方が山や林で囲まれた「すり鉢状(盆地)的なエリア」である。①も含め、このばあいは「頼れる店」を通り越して、民家のあるはずれまで商圏にすべきだろう。奥の人もさらに奥にスーパーがないため、「頼れる店」を利用するか、通り越し選択性の立場から内側の当店まで来る必然性があるからだ。山の中腹まで人家が延び、付近に頼れるスーパーがなければ、サルやイノシシ、カモシカなどの天国であろうと、どこまでも商圏視してよい。時に10km、また高度で200~500mにもなるだろう。長野県伊那市の天竜渓谷そいでは、こうした地点の訪問調査も経験した。
3.交通上の障害物で圧縮される
自店の商圏を設定しても、どの方向、どの面(エリア)からも一律に引けるわけではない。途中に移動の障害物があれば、その方向や面に対しての集客力は弱くなる。その引きずらさは、徒歩、自転車、自動車の利用率でも変わってくる。このためアーバン(都会地)、サバーブ(郊外地)、ルーラル(農村部)と単純化して障害物による圧縮率を出すための調査もしてみた。
障害物となる要素を複数あげ、「その先に行くか、行かないか」を聞き、全体の回答数に対し「行かない-の回答数」の割合(圧縮率)を出したのが別表である。アーバン、サバーブ、ルーラルごとに各30~50人に聞いた回答結果を踏まえたもので、まだまだ完全のものではない。
表-1 障害物による圧縮率 (一部推定値はいる)
|
アーバン
|
サバーブ
|
ルーラル
|
大きな河川越え
|
0.38
|
0.61
|
0.69
|
鉄道の反対側の踏切越え
|
0,34
|
0.48
|
0.73
|
鉄道の反対側の駅舎越え
|
0.41
|
0.55
|
0.76
|
鉄道のガード下越え
|
0.74
|
0.85
|
0.85
|
太い幹線道路越え
|
0.38
|
0.48
|
0.76
|
坂を登る方向
|
0.42
|
0.42
|
0.80
|
坂を下る方向
|
0.58
|
0.58
|
0.93
|
店前道路の交通量激しい
|
0.33
|
0.35
|
0.44
|
店前道路が狭い
|
0.45
|
0.45
|
0.45
|
店前歩道がない
|
0.51
|
0.51
|
0.73
|
自転車が停めにくい
|
0.23
|
0.37
|
0.64
|
車で入りにくい道・駐車場
|
0.39
|
0.39
|
0.18
|
幹線道路から奥まった所
|
0.64
|
0.77
|
0.78
|
周りが工場・事務所街区
|
0.63
|
0.63
|
0.78
|
周りが建築・道路工事中
|
0.42
|
0.42
|
0.42
|
孤立した寂しい場所
|
0.55
|
0.55
|
0.55
|
賑やかな場所の反対方向
|
0.77
|
0.77
|
0.77
|
圧縮率がアーバン、ルーラル、サバーブの別なく一定か一定に近いものもある。「店前の交通量が激しい」「「店前道路が狭い」「奥まった場所」「周りが工場・事務所街区(殺風景)」
「周りが建築・道路工事中(危険)」「孤立した寂しい場所」「賑やかな反対方向」等だ。いづれも「途中」でなく店周辺・店自身の環境に問題がある場合だ。立地選定の際、考えるべきことが多い。近くで高速度道路や橋、ビルの建設がある場合、赤字期間をなくすため、その期間を避けてオープンすることも必要である。
当方は売上予測の計算法であるハフ・モデル法においても、表の圧縮率を利用し、特定方向や面の集客を抑える形にしてきた。
4.ハフ・モデル法の予測と距離の乗数
ハフ・モデル法とは、「各店の集客売上高は、それぞれの店の面積に比例し、細分化したエリアの重心までの距離のX乗に反比例する」というものだ。面積は単純な売り場面積ではなく、販売力を加味した「販売力修正面積」であるべきで、その店の年間売上高÷スーパーの平均的1坪効率=販売力修正面積としてきた。同じ1坪でも年に200万円を売る店もあれば、倍の400万円の店もある。これらを一律に見た目の面積で計算したら、正確な予測は不可能である。
ハフ・モデル法では1次商圏エリアを普通10~20の面に細分化し、エリアごとに人口の重心に点を打つ(地図上の番地の数で推定)。各店からの距離は、この重心までとする。この際、「重心までの距離」÷(表の圧縮率)=障害性を加味した距離(伸びる)・・・となり、ハフ・モデル法という集客力計算に生かすことができる。
表―2 距離別・店別の平均家庭内シェア%の推移
地域
距離km
|
アーバン
|
サバーブ
| ||
スーパー
|
GMS
|
スーパー
|
GMS
| |
0.5
|
30.71
|
36.94
|
31.82
|
25.76
|
1.0
|
14.09
|
17.61
|
19.34
|
15.58
|
1.5
|
6.72
|
9.04
|
13.81
|
11.06
|
2.0
|
2.33
|
3.94
|
10.51
|
8.37
|
2.5
|
-0.51
|
0.45
|
8.26
|
6.54
|
3.0
|
|
|
6.60
|
5.18
|
3.5
|
|
|
5.21
|
4.14
|
4.0
|
|
|
4.28
|
3.28
|
距離乗数
|
1.0986
|
0.9604
|
集客売上高は「距離のX乗に反比例」としたが、X乗を普通1.5乗とか2乗にしたソフトが売られている。だが仮に人口見合いのスーパーの数がアメリカも日本も同じとすると、日本のスーパーの商圏はアメリカの約1/12.5と見られる(国土が25倍、人口が2倍としての話である)。このため、長野県のように商圏半径の平均が2.5kmとして、車で時速20kmで走行したとしても、7.5分で目的のスーパーに着いてしまう。このため、距離にあまり関係なく「池の鯉」のように商圏内を回遊する。
距離の2乗に反比例だとかなり急カーブの減少曲線(双曲線)、1.5乗とするとやや緩い曲線、1.0乗だとさらに緩慢な曲線になる。実際は何乗に近いか? リサーチ1件ごとに顧客調査で得た顧客別・店別シェアを地図に落とし込んであるため、距離と集客率の関係をいつでも分析できる。
表―2は、アーバン、サバーブに分け、1~2kmなら1.5mと中間距離として、距離別・店別(SMとGMS別)の家庭内シェアを各30サンプルほどを整理し平均値をまとめたものである。グラフ化すると、アーバンとサバーブの別なく、スーパーとGMSのカーブはほぼ一致する。両者の平均値について、高度な数学知識を持つ専門家に距離の乗数を解いてもらった。結果はアーバンで1.0986乗、サバーブで0.9604乗となった。
以上からすると、乗数は1倍として見て大きな狂いはない。当方のハフ・モデル計算では、1乗を使い、時に何乗の数値にも変えられるソフトで計算してきた。1乗だと圧縮率の計算もそのまま反映できるので都合がよい(1.5乗とか2.0乗では複雑に変化)。また何乗にでも出来れば、例えば駐車場のない競合店について2倍のハンディを課す・・・ということも出来る。
なお詳細なデーターが残っていないが、表のGMSはアーバンでスーパーの平均約1.5倍の売り場面積、サバーブでは約2倍の面積であった。1.5倍とか2倍といっても、集客人数にはそのままの倍率で反映されない。家庭内シェアでは、アーバンの場合で約20%アップ、サバーブでは20%弱のダウンにとどまる。GMSだからと言って、面積見合いの購入額になっていない。これはスーパーにとっては幸いなことだ。食品スーパーの食における強さを示している。
4.商圏内競合店はほぼ10店
当方の商圏設定からすると、商圏内競合店は8~12店ほどで、平均すれば10店ほどである。ミニ・スーパー、逆に大型のGMS、ディスカウント・ストア、コープ店舗というものも各1店は加わるのが普通だ。ディスカウント・ストアは関東のばあいOKストア、ロジャース、家具店も持つオオカワ、魚中心の角上等だ。長野では会員制の西源が該当する。
実際の競合は生活雑貨を売るホームセンターやドラッグストア、便利性を売るコンビニ、非店舗販売の生協の共同購入他(ケータリングのヨシケイ、らでぃしゅぼーや、 オイシックス、個人の農家、郵便局等)なども含む。だがこれらの商圏関与度はまず確定困難と言ってよい。このため個別訪問のアンケート調査が必要になる。月の購入金額とか購買頻度×関連単価=推定購買額として捉える努力が必要になる。そうして総購買金額―以上の金額=ハフ・モデル計算に関与する購買金額・・・とするのが妥当である。
22地区の平均として出したシェアを紹介すると・・・
表―3 商圏の業態別に見た平均的家庭内シェア
区分
|
商圏内の平均シェア(流出分含む)
|
➀ハフ・モデル法の
計算対象
|
GMS16.2%、食品スーパー53.6%
|
➁ハフ・モデル法の
計算対象外
|
コンビニ6.6%、零細店5.7%、ドラッ
グストア+ホームセンターの食品+日用
雑貨等5.1%、非店舗購入4.2%、
|
➂流出率相当分
|
8.6%
|
訪問調査を行わないリサーチ技法では、②と➂はあやふやになり、決して精度の高い予測は出来ないはず。
食品スーパーの売上予測調査承ります スーパー開発 近藤
売り場規模
|
備考
|
調査分析
|
旅費・宿泊
|
300~600坪
|
40件の訪問
調査含む
|
30万円
|
実費
|
300坪未満
|
25件の訪問
調査含む
|
20万円
|
実費
|
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